『CCI(国際綿花評議会)デニムグローバルイベント2007上海』

講演タイトル『日本のジーンズマーケットの現状と特徴』

*本講演は小林氏のスピーチが、ヘッドフォンを通じて英語と中国語に同時通訳されて行われました。

日本のジーンズマーケットは、他の国ではあまり見られない大きな特徴を持ちます。ひとつは、ジーンズカジュアルショップと呼ばれる、多ブランドのジーンズを揃え、商品構成されたショップが、大手チェーン店5社でおよそ1000もの店舗をもつことです。また、その他ジーンズ専門店も全国でおよそ300店舗が存在します。
これらのジーンズカジュアルショップはここ数年来出店と拡大を継続してきました。ただし、現在が拡大の過渡期であり、今後はより消費者を意識した店舗作りが必要となってくると思われます。

また、これらのジーンズカジュアルショップ以外にも、GMS店舗内のジーンズショップがおよそ300店舗存在し、ジーンズを主力として取り扱うSPAの店舗も800店舗以上存在しています。
それらのマーケットプライスは$40~$80が中心です。

このようにNBと呼ばれるジーンズを主力で取り扱うショップが大変多く存在している状況は、世界の中では大変特異なマーケットであると思います。

アメリカ・ヨーロッパとの大きな違いの例として挙げると、大変残念なことながら、〇〇〇は日本に進出して大きな赤字を続けています。また〇〇〇に至っては一昨年〇〇〇に売却を行うなど、欧米的なロープライスマーケットは成功していないという現状です。

日本のデニム・ジーンズ産業の大きな特徴を説明しますと・・今日も大手デニムメーカーに関係する方がお見えになっていますが・・・ 紡績メーカーが大変積極的に、デニム生地の生産に対して設備投資を行っており、紡績工場でも過去からの技術的な蓄積を持っていますので、新しいデニム生地の開発に積極的なチャレンジを継続していることです。そして日本で開発・生産されたデニム生地は国際的にも高い評価を得ています。

また縫製の分野に関しては、皆様もご存知のとおり、JUKI・BROTHER・PEGASUS といった、世界の縫製マシンのリーダーシップを取っている企業が存在し、最先端の縫製マシンの供給を受けることが可能です。

さらに洗い加工の分野においては、私どもが世界に発信したストーンウォッシュ加工を基本として、常に世界に向けて新しいウォッシュ加工の提案を行い続けています。

その他の副資材としても、ファスナー、ボタンやリベット、ラベルなど、全ての業種が日本で開発され、生産を行い続けていることか、我々にとっても大きな力となっていることは否めません。

ジーンズの文化は、日本ではまだ50年あまりの歴史しかありません。ただし、先ほどよりお話ししているジーンズの生産に関わるほとんど全ての業種において、日本の伝統的な技術や日本人が古くから持つ感性が、ジーンズの生産の随所に残っているということが、大きな強みであると言えます。

それは、伝統的な着物の文化を始め、器(うつわ)や塗り物などの技法、絵画の技法、あるいは四季を感じるような色彩への感覚であったり・・これらの数値化することが難しい感性の部分は、現在でも様々なところで応用されています。

もう一つの特徴は、新しい機械の開発であり、精細さが要求される微妙なメンテナンスレベルの高さであり、それらの機械を使いこなすオペレーターのレベルの高さなどが挙げられます。

日本では、ジーンズの生産にたずさわるオペレーターは、生産者でありながら消費者でもあります。
ジーンズ生産にたずさわる縫製工場や洗い加工のオペレーターが、100ドルから200ドルのジーンズの消費者でもあり、高いレベルでの『消費者の感覚』を持った生産者であるということが、日本のジーンズ産業の大きな特徴と言えます。

もうひとつ、物づくりはパフォーマンスではありません。
いくら事務所やショールームが立派でも、現場の作業環境が悪ければ意味がありません。
一部の工場では、海外バイヤー向けの応接室はカフェのようで、トイレもきれいにされていますが、ワーカー用の休憩室やトイレは大変劣悪な環境であるというところもあるようです。
私は、現場がクリエートできていない工場では、付加価値のある商品は生まれてこないと考えています。

よく、人口一人あたりの本数でデニムの消費の少なさ(アメリカ 2.5本 ヨーロッパ 1.5本 日本 0.6本)
について話しをされる方も多くみられますが、日本は人口一人あたりの金額においてはかなり上位に位置すると思われ、そういった意味では成熟したマーケットであると言えます。

 

 

 

 

 

未来と課題

日本は物作りにコストが掛かります。価格競争ではなく、価値競争で勝っていかなくてはなりません。
日本のデニムビジネスは「神戸ビーフを目指す」と言うと大げさですが、醤油ベースの味付けをした他国と違うアプローチが今後も必要となります。

他社や他国で売れているものをアレンジするということは、つい陥りがちではありますが、それはコピー商品と捉えられ評価を得ることが出来ません。自分の型としなければ、オリジナルとは言えません。
若い人が勉強のためにトレースすることは重要ですが、それに自社のブランドを付けたときからコピー商品となり、ブランドの価値を落としてしまします。企業にとってブランドは命です。
全体の傾向、などというのは、デザイナーとしてはまだ二流であるということです。

そのためにもクリエイティブな能力を持った人材を教育することが今後の大きな課題となります。幸い日本の学生のデザイン感性は高く、各国の学生によるファッションショーにおいても高い評価を得ています。これはアジア全体としても言えることです。

しかし社会に出てから実践で勉強する場が少なくなっており、ファッション雑誌やメディアからの情報の受け売りと、勝手な勘違いからアーティスト気分になり、セミプロからプロになる過程において脱落する人間が多いことも事実です。
個性であるとかスタイルということは、自分で話しをすることではなく、相手に感じさせるものだと思います。

その背景には高校や専門学校や大学等の学生時代に、世界で最もファッションにお金を使える国であり(その理由は学生アルバイトでも月額5万円~8万円の収入が一般であり、その金額のうちかなりのウエイトがファッションに注ぎ込まれているからです)、その金額は40代の社会人より多いと言われています。このことがストリートファッションにおいて、日本が高い評価を受けている理由でもあります。

つまりスタートは他国に先行していますが、社会人になってからの成長が遅れていることが問題であると言えます。特に美的感受性が欠けてきます。

また消費者に話を聞いても、「今特に欲しいものはない」という考えを持った人々が多く、『何を新しく提案出来るか』、また品質の良さはもう当たり前になっているので、『どのように作られているか』、つまり物作りの履歴も説明し、≪安心出来るまともな商品作り これは真面目なだけでなく、社会的に、また人間としてルール違反をしない≫が重要となると考えます。

行き過ぎた例ですが、今日本では作り手の顔が見えないことが問題であるととらえ、生産者の写真を貼った野菜を店頭に並べて、「だから安心です」という売り方がよく見受けられますが、その生産者が安心な人かどうかは我々にはわかるはずもなく、もしかしたら地元では評判の悪い人かも知れない・・という笑い話もあります。

デニムは世界中で愛用されており、それぞれの国それぞれのデザイナーが新しい提案を行なっていますが、自分の国だけで通用するブランドでは今後の成長は難しく、他国においても通用するブランドであることが成長する上で不可欠であると考えます。
そこには物まねではなくオリジナリティが必要であり、考えるデザイナー・それを生産に結び付けられる人・それを作り出す生産工場・人を育てられる企業でなければならないと思います。
《たかがデニム、されどデニム》と日本では表現しますが、考え方により今後も新しい提案はどんどん生まれてくると考えています。

また最後になりますが、我々がジーンズを作り出す上で綿花は非常に大きなポイントになります。個人的ではありますが、自分が見てきた中ではアメリカにはデニムに適した綿花が多く、サンフォーキンにいたっては最もデニムに適していると感じています。安定した品質が保たれているということは、物作りの歴史と伝統から生まれるものであり、アメリカの農業の奥深さを見ることが出来るということを付け加えて話を終わらせて頂きます。

ありがとうございました。

イベント終了後のパーティーにて
小林さん 写真向かって一番左
貝原会長 写真向かって右から4番目
小泉   写真向かって左から2番目

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