FISMA TOKYO(東京ファッション産業機器展)視察したらカンスペさんがすごかった!

10月3日~4日に東京ビッグサイトで開催された、58th FISMA TOKYO(東京ファッション産業機器展)を視察させて頂きました。こちらの展示会は東京都ミシン商工業協同組合様が主催、東京都が共催している縫製機器を中心とした展示会で、確か以前は東京ミシンショーという名称で開催されていたと記憶しています。

東京という名称が付いていますが、出展企業は東京だけではなく全国の主要なファッション産業機器関係の企業が集まる、JIAMショー(国際アパレル機器&繊維産業見本市)に次ぐ大規模な総合展示会です。

 

このような展示会は、もちろん各社が最先端技術や新しいアイデアを投入した最新の機器を視察する事が目的ではあるのですが、業界のお祭りみたいな雰囲気もありまして、2年ぶりに会う人や5年ぶりに会う人、10年ぶりにお会いして、ご高齢になっても現役で頑張っていらっしゃる元大手ミシンメーカーの役員だった先輩などとも偶然お会いできた、私にとっては楽しいイベントです。

 

今回の訪問の目的のひとつは、私がアドバイザーとしてお手伝いさせて頂いているアズマ株式会社様の【キンバスパンサスティナブルアクション】という取り組みについて展示されているそうなので、ご挨拶を兼ねて見に行きたいという事でした。

【キンバスパンサスティナブルアクション】についての詳しい説明は今回は省略しますので、ぜひ検索してみてください。正式なインスタグラムもありますので、ぜひご覧ください。とりあえず、私が最近に手掛けたのは、新宿の文化服装学院様の生産管理実習室に【Kinba spun】というブランド表示を掲げた専用の工業用ミシン糸の棚を設置させて頂いたという取り組みです。

文化の学生さんたちが、作品作りにキンバスパンを使ってくれて、卒業してアパレル企業に入社してキンバスパンをたくさん使用してくれると良いのですが。

 

アズマ株式会社様は工業用ミシン糸の販売だけでなく、顧問にアパレル業界のレジェンドを揃え縫製技術アドバイスを行ったり、アパレル業に携わる方が気軽に利用できる最新CADやミシンなどを設置したスペースを社内に設置しており【アズマソーイングコネクション】という取り組みも積極的に行っております。

http://asc.azuma-jpn.com/

 

展示会当日も、工業用ミシン糸屋さんとしてはかなり広い出展スペースで展示を行い、たくさんの来訪者で賑わっておりました。

アズマ株式会社様の出展ブースの様子

キンバスパンサスティナブルアクションの紹介コーナー

 

もちろん私としては、JEANS MEISTER®としてジーンズに関わる機器の最新事情を常にチェックしておきたいのです。ジーンズ業界に30年以上関わっていますので、だいぶ古い時代の事も知っております。

以前はこのような縫製機器の展示会では、展示会場の一部の区画が【JEANS】エリアだったり、ミシンメーカー様のブース内に【JEANS専用機コーナー】があったりしました。特に海外ではジーンズの生産はかなり大規模な産業ですのでジーンズ専用エリアはかなり充実した内容でした。出展企業もJUKIさんやPEGASUSさんを始めとする日本のミシンメーカー様や、欧米企業も多数出展されておりました。

各社が新しいアイデアや技術を投入したミシンや、ベースのミシンをオリジナル改造した自動機など、見ているだけでもワクワクしたものです。

 

なので、今回もジーンズ用ミシンはどんなになっているのだろうと楽しみにして視察したのですが、残念ながらJUKIさんもPEGASUSさんもジーンズ用のミシンは展示されていませんでした。(見逃していたらすみません。)

 

会場内を歩き回り、ジーンズやデニム生地を扱っているブースを探していると、まず目に入ったのはオルガン針株式会社様の壁にかけられているジーンズの写真でした。

オルガン針株式会社様の展示

 

ジーンズの縫製というのは、アパレル製品の中でもかなり過酷な条件となります。アイテムとしてはカーシートと同じレベルの厚さや硬さとなります。ですから、使用する針の選定はかなり難しい(過去は難しかった)のです。

 

そんなジーンズ縫製用のミシン針に、様々な革新的技術を投入したのがオルガン針様でした。30年くらい前、当時まだお若かったオルガン針開発担当のTさんが中心となり熱意を持ってジーンズ用ミシン針を開発されました。当時、私もいろいろなテストをお手伝いさせて頂きました。

現在Tさんはオルガン針株式会社様の開発担当役員になられているそうです。オルガン針株式会社様のジーンズ用ミシン針に対する姿勢は素晴らしいと思います。

 

そして、さらに各社のブースを見て回っていると、おお!ありました!ジーンズだらけのブースです。

そちらの企業は【KANSAI SPECIAL】様。もちろん有名なミシンメーカー様で、私もジーンズメーカー時代にはいろいろとお世話になりました。一般的には【カンスペ】と略されて呼ばれる事が多いので、私の文章も以降カンスペさんと記載させて頂きます。

私が印象に残っているのは、カバーリング用ミシンかな。カバーリングというのは、ジーンズの前ポケットの向こうあて布を袋地に縫い付ける工程です。

カバーリング仕様

ジーンズの向こうあて布付け工程の縫い方は時代によって結構変わるのです。たぶん元々は向こうあて布の下をアイロンで折って本縫いミシンで付ける方法だったようですが、次にオーバーロックして本縫いで縫い付ける方法が出できました。

そして、次に現れたのがカバーリングという縫い方で、向こうあて布の下側をかがりながら同時に袋布に縫い付けるという方法でした。

このカバーリングという方法であれば、それまでオーバーロックして本縫いで縫い付けるという2工程を一度でできてしまうので、生産効率が高いのです。

 

カバーリングという方法がいつ、どこで開発されたのかは良く分かりません。私は勝手に、日本でジーンズ生産が始まってからではないかと思っていたのですが、友人が持っているビンテージジーンズの向こうあて布付けがカバーリングで縫われていたのを見て、日本発では無いのだと知りました。

 

話はカバーリング方向へと脱線してしまいましたが、今回カンスペさんが展示していたのは、ジーンズ専用の巻き縫いミシン・ベルト付けミシン・裾三巻ミシンなどでした。

 

以下、ミシンはパッと見ただけですが、私が注目したポイントを簡単に説明します。

 

①     ベルト付け

ジーンズのベルト付けにもいろいろな方法があるのですが、たぶん一般的に行われるのはベルト先端をベルトを先引きローラーまで入れて、ベルトがつながった状態で縫い始め、ベルト縫い終わり側だけ織り込んで作るという方法かと思います。

この場合、ベルト縫い始め部分は縫われてしまうので、30年ほど前は次の工程でベルト先を作るときにベルトの余り部分をカットして、縫い目をほどいたりハサミで割いたりしていました。

 

この作業はけっこう手間がかかり、縫い上がりもあまりキレイでは無いという短所がありました。

その後開発されたのが、縫い始め部分の縫い目を『縫わない』という、目飛ばし機構の開発でした。この目飛ばし機構にもいろいろな機構があるようですが、いわゆる『カラカン』という状態で糸を引き出せる『目飛ばし』機構でした。

目飛ばし機構を使えば、ベルト先を作るときに縫い目をほどく必要はなくなりますので、生産効率が格段に上がります。

今回展示されていたカンスペ様のベルト付けミシンは、ベルト先をカットするギロチンカッターと目飛ばし機構がブラッシュアップされているようでした。

ジーンズ専用機がほとんど展示されていない状況の中で、ジーンズのベルト付け専用機の開発を続けていらっしゃるのは素晴らしいですね。

カンスペ ベルト付けミシン

目飛ばし機構

 

②     巻き縫い

ジーンズ縫製の最大の特徴は『巻き縫い』であるという事は以前

『EXPERIENCE AND KNOWLEDGE/Sewing』コーナーで語っているのですが、巻き縫い用のミシンがないとジーンズは作れません。

 

古くはユニオンスペシャル358がメインとして使用されていましたが、その後、JUKIさんのMSシリーズやPEGASUSさんのFVシリーズなどがユニオンスペシャル358の後継機種として使用されるようになりました。

どのミシンもそれぞれに素晴らしい性能ではあるのですが、ミシンショーでは残念ながら展示されていませんでした。そんな中、カンスペさんがジーンズ専用巻き縫いミシンを出展されておりました。

 

ミシンのスタイルは、ユニオン358タイプでは無くてJUKIさんのMSのような腕タイプです。現在では世界のジーンズ縫製においては腕タイプのほうが主流なのかもしれません。

カンスペさんの巻き縫いミシン

 

注目ポイントは、ズバリ!ラッパの美しさです。巻き縫いという工程は、ミシンの性能以上にラッパ(バインダーともいう)の精度が重要なのです。このラッパという物、なかなか機械で簡単に作れるものでは無く、ほとんどが職人さんの手曲げだと聞いた事があります。ラッパの精度というのはとても大切で、生地の厚さやベルト幅などで手作業で調整しながら作っていきます。まさに職人芸です。

今回ペガサスさんが出展されていたベルト付けミシンのラッパがピカピカと大変美しく、JEANS MEISTER小泉としては萌え萌え(古いか。。)なのでした。

巻き縫いのラッパ 萌え萌え

 

③     裾三巻

ジーンズ専用の環縫い裾三巻ミシンです。皆様良くご存じのとおり、なぜだかジーンズの裾三巻は環縫い(チェーンステッチ)の人気が高いのです。

このあたりの話も以前ブログで語ったことがあるので、興味がある方はご一読ください。

 

JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』

 

以前のブログにも書いたとおり、環縫いの裾巻き工程には『縫い終わりからほつれる』という面倒くさい欠点がありまして、今でもどこかの国のジーンズウォッシユ工場で「裾がほつれた」と問題になっているかもしれません。ジーンズ生産あるあると言っても過言ではない環縫い裾三巻のほつれを防止するために、世界中のジーンズ縫製関係者がいろいろな対策を考えていると思います。

 

そんな問題を解決する機構として、ショートステッチがあります。この縫い方はその名のとおり、縫い終わりで縫い目の間隔を細かく潰し気味にして、団子状態にすることでほれにくくするという機構です。

なお、この仕様は元々トランクスのゴム付けミシンなどに用いられていた方法らしく、そちらの正式名称はコンデンス機構といいます。ですから、今回のカンスペさんの展示機種もコンデンス機構という名称で紹介されています。

 

なおかつ、カンスペさんの裾三巻は現在も進化を続けておりまして、カタログには『コンデンススティッチ機構とトリプルスティッチロック機構により縫い終わりからのほつれを減少させます』と記載されております。

当日はトリプルスティッチロック機構について詳しくお聞きすることはできませんでしたが、現在も環縫い裾三巻のほつれ問題にしっかりと向き合っているカンスペさんはジーンズ縫製の業界にとっては頼もしいミシンメーカーさんだと感じます。

 

 

カンスペさんは『KANSAI SPECIAL』というブランドで工業用ミシンを製造販売されている企業で、企業名は『株式会社森本製作所』様です。創業1957年、MADE IN JAPANにこだわりを持つ歴史ある老舗企業で、現在は日本のみならず、ドイツ・アメリカ・シンガポール・上海・バングラデシュにも海外子会社とネットワークを持つグローバル企業です。

近年は南米向けの販売も伸びているとの事で、展示会に参加されていたスタッフの皆さんも若い方が多く、活気ある雰囲気でした。

日本国内でのジーンズ生産は、残念ながら減少の一途となっているようですが、ジーンズは世界中で生産され愛用されています。生産国はベトナム、バングラデシュ、トルコ、チュニジア、中南米へと拡大しており、各国のジーンズ工場が生産性競争にしのぎを削っています。KANSAI SPECIAL、株式会社森本製作所様が、これからもジーンズ縫製、アパレル生産の分野でますますグローバルに飛躍される事を心よりご祈念申し上げます。

KANSAI SPECIAL      https://www.kansai-special.com/ja/

 

最後になりますが、文章内において間違いやご意見などございましたら、JEANS MEISTER®小泉までお知らせ頂けますと幸いです。

 

ジーンズの石の話。

久しぶりにジーンズを購入しようと思い、いろいろと探してみました。と言っても、携帯をポチポチしただけですが。私の好みは、シルエットはブーツカットで、ちょっとストレッチが入っているものです。最近だとLevi`s527の並行ものなんかを好んで穿いています。んで、そのあたりで検索してみました。

すると、ちょうど良さげなのを見つけました。そのジーンズはAmazon EssentialsというシリーズのAmazonプライベートブランド商品でした。

ウエストサイズも揃っていますし、レングスも1インチきざみでラインナップしています。しかも価格はなんと2500円程度というリーズナブルさです。

最悪、気に入らなければ返品もできるし、というくらいの気分でポチッてみたのでした。

 

さすがAmazon。翌日には届いたので、さっそく穿いてみました。穿きこごちは、まあまあです。シルエットはブーツカットというよりは、膝と裾が同寸くらいの感じでほぼストレートです。デニム生地は、ちょっと細めの番手の糸をしっかりと織っている感じで、オープンエンドにしてはザラザラしない肌触りで悪くないです。

 

そして、ポケットに手を入れたりしてみました。

すると、前ポケットの袋の中で何かコロコロしたものが触れました。

ポケットの中に入っていたモノ。それは、ジーンズをストーンウォッシュした時の石がポケットの中に残ってしまったものです。これはおそらく天然軽石です。

 

ジーンズ生産における最先端の加工技術としては、オゾン脱色やナノバブル、また、洗い加工前にレーザーで穿き古した感じを出すなど、水の使用量を極力減らし環境に配慮した加工がトレンドのように言われていますが、Amazonなどの大量生産の分野では、まだまだ石と水を使っているのだということがわかります。

しかし、このポケットの中に入っていた石は、そう簡単に済む話ではないのです。

ジーンズを購入するお客様が『あー、ストーンウォッシュだから石が入っているのね』という物わかりの良い方ばかりならば苦労はしないで済むのですが、一歩間違うと大変重大な事態へと発展します。

 

前置きが長くなりましたが、これからは、私が32年間の大手ジーンズメーカーで消費者対応の業務をしていた頃に経験したことです。

その前に、この話の重大なポイントとなる『PL法』についておさらいしておきます。

『PL法とは』

製造業に係る方ならば、何となく耳にしたことがあると思います。PL法とは『Product Liability Law』の略で、日本語では製造物責任法というのが正式な法律です。

PL法について正しい理解をしていない方がけっこう多いようですので説明しますと、『製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に被害が生じた場合、製品の欠陥を証明することにより、その製品の製造者に対して損害賠償責任を負わせることを定めた法律。』と定義されています。

ちょっとわかりにくいと思いますのでザックリと雑に説明しますと『商品の欠陥が原因で怪我をしたり持ち物に損傷が発生した場合には、製造者や輸入者が損害を賠償する責任がある』という法律です。

つまり、商品そのものの不良や欠陥はPL法の対象ではないです。いわゆる『拡大損害』が発生した場合にのみPL法の対象となります。

ジーンズの拡大損害で代表的なものと言えば、濃色ジーンズのインディゴ染料が、車のシートやソファー、靴やバッグに付いてしまう『移染』です。私自身もワンウオッシュジーンズの染料がBMW M3の白いレザーシートに付いてシートが真っ青になったり、エルメスの白いバーキンが青くなったりして、自分自身も真っ青になった経験が何度もあります。

そして、ストーンウォッシュジーンズのポケットの中に残っていた小さな石ころ、これもPL法的にはその小ささに見合わない、強力な爆弾並みの被害(?)をもたらします。

 

【携帯電話事件】

お客様相談室の電話が鳴りました。消費者対応担当の女性社員が丁寧な口調で電話に出ると、お客様からのクレーム電話でした。お客様の口調から、かなりご立腹であることは想像できました。

お客様からの申し出の内容は、『ジーンズのポケットの中に石が入っていて、ポケットに入れていた携帯電話に傷が付いた』というものでした。

これはもう、完全にアウトです。ジーンズのポケットに石が入っているというのは一般的には全く想定できない状況であり、その石でお客様の所有物に傷がついてしまった(拡大損害)という、PL法ストライクど真ん中とも言える事態です。

ちなみに当時はまだスマホは登場しておらず、ガラケーを使用している時代でした。おそらくスマホであればケースに入れている方や液晶保護フィルムを貼っている方が多いと思いますので、あまり重大な事態にはならないだろうと思いますが、当時、ガラケーにカバーを付けるということはなかったと記憶しておりますので、携帯というのはけっこう傷が付きやすい物だったと思います。(同様のクレームは数回ありました。)

 

確か、お客様の要望は『携帯電話を新品と交換して欲しい』ということだったと記憶しています。しかし、携帯電話というのは当時も高額なものでしたし、そもそも携帯電話というのは内部データが重要なものなので、ただ新品と交換すれば良いというものではありません。

かなりご立腹のお客様と電話で何度もやりとりをして、このクレーム案件の落とし所を探りました。そして、優秀なお客様対応担当課員がみつけてきたのが、携帯電話の外側のカバーを交換するというものでした。

当時、ガラケーというのはカバーだけを交換できたのです。価格は正確には覚えていないですが、確か5000円程度だったと思います。

お客様に丁寧に説明して、ご自身で携帯ショップに行ってカバー交換をして頂き、領収書を 送付して頂いてその費用をお客様の口座に振り込んで、解決となりました。

ポケットの石については、他にもいろいろなモノが傷ついて問題になりました。高額なものではカルティエだったかダンヒルだったかの金ピカのライターや高級ブランドのレザーの財布などもあり、対応に大変苦労した記憶があります。

 

お客様の中には、製造業に関係する方もたくさんいらっしゃいますので、クレームの申し出の際に『これってPL案件ですよねー』などと言われる場合もあります。こうなるとお客様も専門知識を持っている可能性が高いので、メーカー側は無力です。

なお、メーカーや小売店の方の中には、『いやいや、そのために製品に【小石や砂などが混入している場合がありますのでご注意ください】と注意表示の下げ札を付けています』とおっしゃる方もいるのですが、そもそもジーンズのポケットの中に小石や砂が入っていること自体がアウトなので、PL法的には注意表示は免責にはなりません。

『それではなぜ注意表示を付けているのか』と疑問に感じる方も多いかと思います。

その理由としては、そもそもPL法が施行された1995年にPL法における『欠陥』の解釈範囲として

◎ 製造上の欠陥

製造・管理工程に問題があることで、設計仕様どおりに製造されず、製品に安全性の問題がある場合

 

◎ 設計上の欠陥

設計自体に問題があることで、製品に安全性の問題がある場合

 

◎ 警告上の欠陥

製品パッケージ、説明書、製品本体にある使用上の指示や警告が不十分な場合

と規程されているからです。

 

つまり、使用上の指示や警告が不十分な場合には【表示】も製品の一部として対象になると規定されているだけで、注意表示が付いているから責任を免れるということではないというのが正しい解釈であろうと思います。

以下、消費者庁Q&Aより転載です。

Q【この法律には、製造物についての注意表示を義務付ける規定はありますか。】

A  【この法律には、製造物等について何らかの表示を義務付ける規定はありません。注意表示に関する規定もありませんが、注意表示の欠如が欠陥に当たると判断される場合もあります。

なお、一般論として、安全性の確保のため、安全に製品を使用できるような注意表示をすることにより、製品販売後の被害の発生・拡大の防止に努めるようお願いします。】引用元 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/pl_qa.html#q10

 

もちろん、お客様の中には『購入したときに付いていた下げ札に石が入っていると書いてあったから仕方ない』と思って申し出をされない方もいらっしゃると思います。また、お客様対応において「注意表示を付けておりますので、お客様に十分ご注意頂く必要があります」と話してご理解頂けるケースもあるかと思います。

注意表示を付ける必要がないとか、意味がないと言っているつもりはありませんので、その点はご理解ください。あくまでも『法律的な効力はほとんどない』ということです。

 

30年以上ジーンズメーカーに在籍して、PL法にかかわるような重大案件を何度も経験しました。まさかの超高額スーパーカーが二子玉川駅前に登場した案件や、保険会社の担当者と共にプロのクレーマー(何もない状態から事件を作り上げて法律的に正当な形で賠償を受けるペテン氏)と戦った事例など、様々なケースを経験しました。

そのあたりも、またの機会に書き残しておこうと思っています。

内容について、ご意見や ご質問などありましたらお気軽にご連絡ください。

*上記の知識を利用しての悪用は禁止です。(笑)

JEANSMEIATER®KOIZUMI

 

ジーンズのリメイク・リサイクルの話

最近、古着ジーンズのリメイクやリサイクルなどの話を見聞きする事が増えてきました。

 

【繊維製品のリサイクル】

SDG’sへの取組が一般にも浸透してきた事も大きな要因ではあると思いますが、そもそも経済産業省では様々な分野でゴミの削減を進めるよう義務付けており、繊維製品に対してもアパ産協(一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会)に対して取り組みを求めてきました。

繊維業界として中心となっていたのはNPOファイバーリサイクル推進協会の木田先生を中心としたグループで、ジーンズ業界の団体であるジーンズ協議会においても木田先生を交え、20年くらい前から議論が行われてきました。

 

そもそも、繊維製品というのは簡単に焼却できますし、生ゴミなど水分を多く含むものを焼却するために繊維ゴミから作られたRPF(廃棄物からできている固形燃料) を添加したりするので、わざわざリサイクルする意味が分からないような部分もあり、繊維製品の3R(リデュース、リユース、リサイクル)が進まなかったという経緯があります。

 

特に、繊維製品においてはリサイクルの用途が大変限られています。繊維製品リサイクルで最も使用されているのは自動車の内装材であり、反毛(生地を綿に戻す事)をしてフェルトの原料になり、ボンネットやダッシュボードのインシュレーター、または成型してトラックの天井バネルなどに再生されています。

 

繊維製品のリサイクルとして製法や供給網が完成しているのがほぼ自動車の内装資材だけなので、繊維業界のあらゆる分野から製品の生産で発生するハギレや、『スーツ下取りキャンペーン』などで引き取られたウール製品などが自動車内装の分野に集中してしまい、各業界の取り合いのような事になっています。スーツ業界、学生服業界、大手小売店、ジーンズメーカーなど繊維業界各社の発表を見ても『回収された服は自動車の内装資材として有効にリサイクルされています』と書かれています。

しかし、果たして大量に回収された衣料品全てのリサイクルを、全て自動車内装資材でまかなう事ができるのでしょうか。

 

このような事から、繊維業界にとっては新たなリサイクル用途を開発する事が以前からの課題でした。

 

【綿繊維からバイオエタノール】

もう10年くらい前と記憶していますが、この分野で画期的な新技術が生まれ、繊維業界にとって大きな期待となったイノベーションがありました。それは、繊維製品の中でも最もリサイクルが難しい綿(セルロース)素材からバイオエタノールを作るという画期的な技術でした。この技術はそれ以前から繊維製品のリサイクルを研究していた岩元美智彦氏と東京工業大学でバイオエタノールの研究をしていた高尾正樹氏が立ち上げた『日本環境設計』によるものでした。

 

この技術を初めて知ったとき、その素晴らしい発想と技術に感動し、またその趣旨に大いに賛同し、第一期FUKU-FUKUプロジェクトのメンバーとして、イオンさんや良品計画さんと一緒に着古した服の回収を始めました。

繊維製品からバイオエタノールを精製するという技術はH&Mなどのグローバル企業からも大きく注目されたと聞いております。

 

その後、FUKU-FUKUプロジェクトはBRINGとプロジェクト名を変え、日本環境設計さんは現在ではかなり大きな会社になっているとお聞きしております。

しかし、私として残念だったのは、本来計画されていた『技術開発によりコストダウンして、繊維製品からバイオエタノールを作るコストをB重油やC重油レベルまで下げて、繊維製品から作られた燃料を一般的な燃料と同じように使用していく』という目標は、その時点(2018年時点)では達成されなかった事です。今後、繊維から作られるバイオエタノール燃料の販売価格が1リットルあたり60円くらいくらいになって、C重油と同等品として使用され、持続可能なリサイクル方法として世界の環境問題や燃料問題に対して大きな貢献をしていく事を信じております。

日本環境設計さんの今後の技術開発により、繊維製品から作られた燃料で、デロリアンだけでなく、普通の車が街を走る日が来ることを期待しております。

 

【古着リメイク】

古着リサイクルとかリメイクというのも最近良く見聞きします。今ではアパレルブランドからも自社製品をリメイクしたようなアイテムが発表されていたり、新鋭デザイナーズブランドが古着ジーンズを材料にしたアイテムをパリコレクションに発表したりというニュースも目にします。

 

これらの取り組みは大変素晴らしいと思います。古着の色落ちの違いをデザインに取り込み、考えつくされたジャケットなどはまさにSDG’sの実践であり、今後広がっていって欲しいと思います。

 

しかし、現実的には古着リサイクルというのは大変な手間がかかりますので、コストは新品の製品を作るよりも高くなる事がほとんどです。この傾向は古着リサイクルだけでは無くリサイクル全般に当てはまる事であり、例えばリサイクルペーパーやリサイクル技術で作られた生地などは、価格が高くなりすぎてしまい、現実的には一般商材としては流通していません。

『このジーンズはリサイクルで作られたデニムでできているから、地球環境やSDG’sを考えて高くても買います』という時代がいずれ来るのかもしれませんが、安価なファストファッションが主流の時代にはなかなかそぐわないようにも感じます。

 

【アップサイクル】

また、最近聞くようになった言葉に『アップサイクル』というのがあります。単なるリサイクルでは無く、作られる製品に新たな品質や機能、デザインといった付加価値を加えるという意味だと思います。

この発想は大変素晴らしいと思います。単なるリサイクルでは無い新たな魅力を創造してリサイクルにかかるコストを吸収するという事が、持続可能なリサイクルにおいて大変重要な要素です。

 

つまり、リサイクルにおいて持続可能な取組を実践するためのポイントは①生産コストを下げて、リサイクル製品であっても市場価格に一致した商材として成立させる。 ②リサイクルの材料を使用して、品質やデザインの魅力をアップして、元の商材よりも高付加価値(コストを吸収できる価格)の商材として生まれ変わらせる。

この二点が大変重要であると考えます。

 

【サービスエリアで売っていたリメイクバッグ】

最後になりますが、このブログトップの写真は以前高速道路をドライブした時に、どちらかのサービスエリアの販売エリアに出店されていた、ジーンズをリサイクルして作ったバッグです。

使用されているジーンズは、Levi’sや日本のブランドがほとんどで、おそらく日本のジーンズの古着が使されています。販売されていらしたのは、このバッグのビジネスをされている社長様の奥様だそうで、お話ししたところ縫製はベトナムで行っているとの事でした。

私はTRUE RELIGIONが大好きだったので、これを買いました。価格は確か2200円だったと記憶しています。

このバッグ、とても良くできています。裏付きの二重になっていて、外側に使いやすいファスナー仕様のポケットがふたつも付いています。

 

このようなジーンズをリメイクしたバッグや雑貨小物は日本でもときどき見かけます。以前は岡山空港でも見たような記憶もあります。

過去に日本で見かけたものは、だいたいが3500円とか5000円くらいと、かなり価格が高い印象があります。

もしもこれだけ凝ったリメイクバックを日本で作ったら、販売価格は1万円くらいになると思います。

 

これだけ良くできたジーンズリサイクルのバックが2200円で販売できるというのは、本来のリサイクル製品のあるべき姿なのでは無いかと思い、とても感心しました。

 

今回は、以前から私が経験してきた事や考えていた事を思い切って書いてみました。

内容に間違い、不愉快な点や不都合などがありましたら、遠慮なくご連絡ください。

また、実名を出させて頂きましたNPOファイバーリサイクル推進協会木田先生、日本環境設計株式会社の岩本会長殿、高尾社長殿、失礼致しました。たいへんご無沙汰しております。ご活躍の様子をいつも嬉しく拝見しております。 小泉澄雄.JEANS MEISTER®

Leeの話

Lee の話

今回はLee の話です。

とは言っても、現在のLEE JAPANではなく、かなり古い話です。

1986年~87年くらいの事でした。当時からLeeというブランドはアメリカ三大ブランドのひとつと言われる有名なジーンズブランドでした。当時Leeブランドは株式会社堀越商会という繊維商社が日本の販売代理店としてジーンズやGジャンなどの輸入販売を行っていました。

当時日本で販売されていたのは香港などで生産されていた物がほとんどでした。当時は200-00フルカットと200-01レギュラーフィットというジーンズがメインアイテムでした。

どのような経緯だったのかは良く知りませんが、1986年~87年からLeeの日本国内での取り扱いをエドウイン社が行う事になりました。エドウイン社は日本国内でのLeeブランドの製造と販売の権利を取得し、国内工場での生産が始まりました。

エドウイン社ではLeeブランドの取り扱うにあたり、大々的に展示会を行いました。展示会には全国からたくさんのジーンズショップの方が来場されました。当時は、全国に個人経営のジーンズショップがたくさんあり、ショップのスタッフさんは長髪、サングラス、ブーツといった厳ついアメリカンスタイルの方がたくさんで、ちょっと怖い感じでした。

あるスタッフさん(グランドファンクのメンバーみたいな方)が、エドウインが作ったLeeのジーンズを見て言いました。「こんなのはLeeじゃない。俺たちが好きだったLeeはこんなのじゃない」

その発言の意味や、そのスタッフさんの言いたかった事は私には良く分かりませんでした。その方は私よりも10歳くらい年上でしたので、経験してきた事や好きだったものが私とは違います。しかし、たぶんエドウイン社が作ったLeeは、当時としては現代的過ぎたんだろうと思います。

その時、エドウイン社でLeeジャパンを担当していたTさんがこう答えました。

「もうドゥービーもイーグルスもいないなんです。今、オレたちがやらなきゃいけない事は、オレたちが好きだったドゥービーやイーグルスを、俺たちというアンプを通して若いやつらに伝えて行く事なんじゃないですか?」

この発言にはシビれました。かっこ良い! そして、確かにその通りだと思いました。音楽もファッションも、いつの時代もみんなが何かからたくさんの影響を受けて、それを自分なりに表現しているんだと思います。エリッククラプトンがロバートジョンソンのクロスロードを聞いて、自分というアンプを通してクリームで自分なりのクロスロードを弾き、クリームのクロスロードやジェフベックの監獄ロックをコピーしたチャーさんが現在でも最高のギターを弾いているのと同じことなんだと思います。

Tさんは堀越商会でLeeのビジネスを担当していた方で、Leeブランドと一緒にエドウイン社に移動してきた方でした。相手のショップスタッフさんとも親しかったようです。Tさんの発言にそのショップスタッフさんも納得していらしたようです。

その後、Leeブランドは堀越商会時代を大きく超える大ヒットブランドとなりました。

ちなみにTさんはすごくカッコよい方でした。ルックスが良くて女性にはモテモテ。英語も堪能でした。歌もすごく上手くて、アコギを弾きながらチェンジザワールドなどを歌うと、男でも惚れちゃいそうなくらいカッコよかったです。

私はとても可愛がって頂きました。一緒に飲みに行ったりバス釣りに行ったり。Tさんが退職した後もずっとお付き合いは続いていました。しかし、その方は『不良』でした。とにかく不良で、ここに書けないような事が多々あり、あまりにも不良すぎて危ないので、だんだん疎遠になっていきました。()

繰り返しになりますが

「もうドゥービーもイーグルスもいないなんです。今、オレたちがやらなきゃいけない事は、オレたちが好きだったドゥービーやイーグルスを、俺たちというアンプを通して若いやつらに伝えて行く事なんじゃないですか?」

この言葉はずーっと心に刻まれています。そして、日本のジーンズメーカーのあるべき姿を表したような言葉だと思います。

Tさん、お元気かな。これを読んでくれたら、ぜひ連絡ください。

日本織りネーム物語

現在、JEANS JOURNEYホームページのEXPERIENCE AND KNOWLEDGE ブランディングパーツの項目の原稿をコツコツと書いております。 凝りすぎて(笑)あまり進まず、忘れられそうなので、最初のあたりだけブログに載せておきます。今までとは趣を変えて、だいたいこんな感じで書き出す予定です。 本編のアップまで少々お待ちください。^ ^

【織りネーム日本昔話 ※ ほぼフィクション】

むかしむかし、それは明治時代の終わりころ。福井県の丸岡というところに一人の立派な庄屋様がおったそうな。

丸岡というところは大きな川が近くを流れ、きれいな水に恵まれていて美味しいお米が取れるところで、三国の港には北前船という大きな船が立ち寄り、大きな川を上手に利用してたくさんのお米を京都などの大きな町に運んでとても良く売れ、人々は豊かに暮らしていたそうな。

親切で村人思いの庄屋様は村の農家からとても信頼されていて、村人はみな幸せに暮らしていたという。

いつも村人の暮らしを気にかけている庄屋様には、実はひとつの心配事があった。

それは、何年間かに一度の事だが、なぜだか夏にとても寒くて陽ざしが弱くて米の粒が大きくならない年があったり、めったに来ない台風が丸岡を通過して稲が倒れて水に浸かってしまう事もあった。

農家にとって、その年の米が不作になると、その後の一年間の暮らしが貧しくなってしまう。とくに丸岡というところは冬にはたくさんの雪が降り、冬の間の仕事は少なく、蓄えが尽きてしまう農家もあったそうな。

村人思いの庄屋様は、雪が降っているころにできる仕事がないか、いつも考えていておった。

 

ある日、小国の港に用事があった庄屋様は、北前船で京から運ばれてきたとても美しい着物の帯を見た。

それは、坂井のお金持ちの奥様たちがお召しになる、たいそう高価な帯であった。

庄屋様は、それが西陣織という名の帯だということは知っておったが、じっくりと見ると手で描いたような複雑な模様が色鮮やかな色の糸で織られておった。

たいそう知恵のあった庄屋様は、その帯を見てピンと来た。「この帯は、狭い幅の機械を使って織っておる。幅の狭い織機ならば、うちの使っていない納屋に手を入れれば何台か置けるぞ!

丸岡に戻った庄屋様は、細い幅の織機についていろいろと調べてみた。すると、当時、ロシアとの戦争に勝利した日本では兵隊さんの勲章に使う細い幅の織物の需要がかなりあるという事がわかった。

勲章には、リボンに縞模様などを織り込むことがあり、この模様を西陣織の要領で作り出せば、鮮やかな柄を織ることができる。この事に気づいた庄屋様は、京西陣から帯を織る職人さんを招き、帯よりもさらに細い幅の織物に鮮やかな柄を織り込む機械を作り上げたんじゃ。

おおよそ6尺程度の幅しか取らない狭い幅の織物を織る機械を何台か揃えて、庄屋さんは自宅の庭の納屋をきれいにして、近所の農家の親父さんたちに声をかけた。

「おたくのお嫁さんやお嬢さんに、わしの庭の小屋で、雪が降っている時期に細い幅の織物を織ってもらえんかね」

村人から信頼されている庄屋さんの自宅の小屋には、近所の農家からたくさんのお嫁さんや娘さんが集まり、いつしか丸岡には細幅織物を作る小さな工場が、一軒また一軒と増えていったそうな。

 

雪深い丸岡地方に、冬の間にも収入が得られる細幅織物という仕事ができたことは、村人の生活をおおいに助けた。新しい仕事のおかげで、秋の収穫が少なくなっても暮らしに大きな影響はなくなり、冬の間にひもじい思いをする事はなくなったそうな。

庄屋様が村人のためを思って始めた幅の狭い織物の仕事のおかげで、丸岡の人々はますます幸せに暮らすことができるようになった。

庄屋様もたいそう安心したことじゃろう。

これが、今も続く福井県丸岡地方(現坂井市丸岡町)が、日本で一番沢山の織りネームが作られる産地になった一番最初のお話じゃ。

おしまい。

秋田からの手紙

『秋田からの手紙』

 

エドウインの秋田県自社工場が8月末をもって閉鎖した事は、いろいろなところでニュースになっているので、皆さんご存知の事と思います。ここ数日の間でも、Yahooニュースなどのメディアで失業した工場の社員の方を対象とした雇用説明会が開催されたなどというニュースが入ってきています。

閉鎖された秋田県内のエドウインの工場は4か所だったそうです。中でも40年以上にわたりエドウインを支えてきた南秋田郡五城目町の秋田ホーセの閉鎖は、地元の方にとって大変ショックな出来事だったようです。

 

エドウインの工場の中でも、特に秋田ホーセという会社は特別な存在でした。秋田ホーセはまだエドウインの売上高が20億円程度で、日本のジーンズメーカーの中でもビッグジョンやボブソンを追いかけている存在だった時代から、日本でナンバーワンの売上高500億円時代になり、グループ工場が15社になるまで、第一号の自社工場としてメーカーとしてのエドウインを引っ張っていく存在でした。

 

秋田ホーセの地元である南秋田郡五城目町には、秋田ホーセで働いていた元社員のOB会があり、永い間、現役社員以上にエドウインと秋田ホーセを愛し、現役社員を応援していました。聞くところによると、OB会の集まりには現役社員の人数を大きく超えるたくさんの元社員の方が集まり、現役時代の苦労話や楽しかった社員旅行の思い出話などをしながら、和気あいあいとした楽しい時間を過ごされていたそうです。

 

私も30年以上にわたり秋田の工場の皆さんと苦労を共にしてきました。特に五城目町の社員の方々とは仕事を超えて、公私ともに親しくお付き合いしているOBの方も多く、一言では言い表せない思いがあったのですが、昨日、私の家に一通の手紙が届きました。

 

その手紙は、見覚えのある懐かしい文字で、丁寧に書かれていました。その手紙は、今から15年ほど前に定年退職された秋田ホーセの元班長さんである、トミちゃん(畑澤トミ子さん)からでした。

 

トミちゃんからの手紙には、秋田ホーセが閉鎖になってからの五城目町の事や、トミちゃんが退職した後に秋田ホーセの社員になったお嫁さん(息子さんの奥さん)の事などが書かれていました。

そして、手紙の内容とは別の便箋に、『思い出の会社と私』という、秋田ホーセへの思いを綴った2枚の文章が添えられていました。

 

手紙によると、その文章はトミちゃんが俳句の誌に投稿した文章なのだそうです。

〝追伸  私・・色々と思い出を記して残したくて、少し作文のようなのを書き俳句のページに納め、皆に知って頂いた文章を再書しますので、どうか読んでくださいネ〟

と書かれていました。

 

このブログでは、以下にトミちゃんからの〝作文〟を転載します。

 

この文章を、エドウインと秋田の工場のために一生懸命に働いてきた社員とOBの皆さん、そして、命をかけて工場の社員のために最後まで頑張った故小林さん、故畠山さんに捧げます。

 

『思い出の会社と私』  畑澤トミ子

 

異国(注 北海道)から嫁いできた私は、しばらくの間、言葉と環境の違い・・・そして日が経つにつれ、故里が恋しく感じられていました。

そんな時、紹介して頂き末広繊維工業の下着をつくる会社につとめることができ、沢山の友達や仲間に出会えたこと。このことが一番の心の支え、安らぎとなり、今この地に根づき揺るがぬ自分を育ててくれたのは、家族は勿論、仲間という存在がとても大きかったと思っております。

 

そして二度目の会社、エドウイン秋田ホーセでジーンズをつくる会社に三十年近くお世話になるのです。

今、自分がこうして ゆっくりとした気持ちで過ごせるのも会社のお陰といつも感謝しております。

 

本当に この会社の最盛期の頃は外国にもどんどん輸出し県内にも沢山の工場がありました。社員旅行では何度も外国へ行ったり 忘年会は盛大で各工場の演芸大会のように盛り上がり楽しい思い出が尽きません。

 

しかし平成二十六年頃から不況の風が一層強くなってきたのでした。秋田ホーセの社長(故小林専務のこと)は本社東京に在住でしたが、とても頭のきれる凄腕の社長でした。

その社長は自分が不治の病と知りながらも それを後回しにして 会社の苦境に走り回り 大手企業の伊藤忠商事に秋田ホーセを委ね見届けて—。 娘のようなかわいい奥さんを残し、六十二歳で逝ってしまったのでした。

退職していた私たちも大変なショックでやり切れない思いでいっぱいでした。

あれから六年余り、不況に合わせ このコロナ禍に拍車がかかり愛着のある思い出深い会社、町の誇りと社員の汗と努力の詰まった秋田ホーセは四十八年間の創業に幕を降ろしたのです。

悲しい現実でした。五城目の町も こうしてひとつずつ灯りが消えていくのかと思うと とてもさみしい限りです。

 

〝ありし日の 思い出辿る 梅雨しぐれ〟

JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 5 前立て天狗編

JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 5 前立て天狗編

ブログ『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 1.取扱絵表示編  2 .ベルト付け編 3.コインポケット編 4.スソマキ編  と今までに4回を書いてきました。とても興味のあるほんの一部の方と、ぜんぜん興味が無い大多数に分かれる事と思いますので (笑) 途中で番外編として チャーさんのジーンズの話 や突然入ってきたエドウインの工場のニュースなどを受けて 秋田の工場の話 などを挟みましたが、今回は懲りずに『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 5』を続けさせて頂こうと思います。

ジーンズに限らず、前開きでファスナー(ジッパー)が付いているスボンには、〝前立て〟と〝天狗〟が付いております。まあ、〝前立て〟という名前は何となく前のタテの部分なので意味は分かりますが、〝天狗〟というのは一体何なのでしょうか。。

〝天狗〟というのは私が在籍していた会社のオリジナルな呼び方なのかと思い、先輩社員に聞いた事があります。すると先輩社員が「紳士服のテーラーなどで一般的に使われている名称である」と教えてくれました。私もアパレルの学校を卒業しているのですが、聞いた事は無かった気がします。またはあまり真剣に授業を聞いていなかっただけかもしれませんが。(;^_^)

ちなみに紳士服の天狗というのは元々はこんな感じだったらしく、この形が〝天狗の鼻〟のようだと言われれば、なるほど!という感じですね。

(紳士服の天狗)

(天狗です。)

 

ちなみにジーンズの天狗はこんな形をしています。すでに全然天狗っぽくは無いですが。。

(ジーンズの天狗)

 

なお、海外生産を行う際に、英語で仕様書などを作るときには、天狗は〝a long‐nosed goblin〟(鼻の長い化け物)とは言わず(一応ジョークのつもり。笑)上前側の前立てを〝Left Fly〟下前側の天狗を〝Right Fly〟と記載する事が多いようです。

さて、本題に戻り、私が購入したLevi’sのブラックジーンズなのですが、前立てと天狗はこんな感じです。

これを見て気づいた事は

① 前立ての下が折り込まれている。カーブでは無い。ファスナーはチェーンファスナーが使用されている。

② 前立に接着芯を貼っていない。

③ ファスナーはYKKの5YGが使用されている。

 

これくらいでしょうか。

まず ①の『前立ての下が折り込まれている。』ですが、この部分はぜひご自身がお持ちのジーンズをひっくり返して見てみてください。どんな形をしているでしょうか? 実は、前立ての形には以下の二種類があるのです。

Aタイプは前立て布の下がカーブ状になっていてロックミシンがかかっているタイプです。

【こちらをAタイプとします。】

 

Bタイプは前立布の下が直線にカットされていて、生地端のボサが出ないように折り込んでいるタイプです。

【こちらをBタイプとします。前立て下は折り込まれています。】

Aのカープタイプは、日本のジーンズメーカーはほとんど全てがこの形だろうと思います。カープ形状にロックミシンがかかっているので、Bのタイプよりもキレイに見えます。では、何で前立ての下がカーブになっているかと言うと、『Bタイプでは無いから』なんです。ちょっと分かりにくいかな~。(^^;

ではBタイプはどんなモノなのかと言うと、ファスナーのテープがロール状につながっている、チェーンファスナーというものが使用されているのです。この場合、ロールケーキをカットするみたいな感じに、ロールのままスライスしたテープ状の前立て布に、ファスナー(チェーンファスナー)を一緒に連続して自動ミシンで縫い付けて、後からジーンズのサイズに合わせてカットします。

工程が前後するかもしれませんが、前立て布の生地端のオーバーロックも、ロール状なので自動ミシンで連続して縫製します。なので、オーバーロックは直線状にしかかけられず、カットした前立て布の上下にはロックがかかっていない状態となります。前立て布の上側はベルトの中に入ってしまうので問題ないとして、下側はカットした生地端が出てしまっているので、前立ての2本針ステッチを縫う際に裏側で生地端を折り込んでいるのです。

なお、私が購入したLevi’sのブラックジーンズの場合には前立て2本針で折り込んで、下側のボサが見えないようにしてありますが、以前には前立て下を直線にカットして、ボサがそのまま出ているジーンズも見た事があります。

では更に考察して、なぜLevi’sのメキシコ製ジーンズにはチェーンファスナーが使用されているか、なのですが、大きくは二つの要因があると思います。

ひとつは、おそらくLevi’sのメキシコの工場はかなり大きい規模なので、生産するジーンズのスタイルやサイズごとにYKKさんにファスナーをサイズ単位で注文するのがすごい大変ですし、サイズで作られているファスナーを使用するよりもチェーンで購入して縫製工場でジーンズに合わせて作ったほうが、コストがかなり低いからだと思います。

このジーンズをじっくりと見てみると、ある事に気づきます。それは、『ファスナーの上止め金具が無い』という事です。サイズで作られているファスナーの場合、スライダーが抜けないようにファスナーのムシ(エレメント)の上下に四角い金属パーツが付いていて、スライダーが抜けないように止めてあります。しかし、チェーンファスナーの場合には後からスライダーを入れているので、上止め金具があったらスライダーは入りません。また、上止めが無くても、ムシのギリギリまでテープがベルトに入っているので、スライダーが抜ける心配は無いワケです。この『上止めが無い』というのはチェーンファスナーの特徴かと思います。

二つ目の要因ですが、米国のLevi’s社は1980年代から、ファスナー工程の自動化の研究を進めていたという事が挙げられます。1980年代当時は、まだLevi’s社がアメリカ(メキシコ含む)でジーンズの縫製を大量に行っていた時代だと思いますが、当時、同社はジーンズの縫製の生産性を向上させるための開発に力を入れており、ファスナー付け工程の自動化も積極的に進めておりました。私がLevi’s社とYKKさんが共同開発していたファスナー工程の自動機を始めて見たのは、おそらく1985~87年くらいだったと思います。正確には覚えておりませんが、そのマシンは、前立てにファスナーを付ける工程やスライダーを入れる工程、カットする工程などが連続して無人で行われるもので、全体が小部屋くらいのボックスに入っていたように記憶しています。

そのマシンを見た時には、Levi’s社の開発力に大変刺激を受けました。そして『さすが世界ナンバーワンのジーンズメーカーだな。でも、いつか日本が追いつく時が来るのだろうな』と考えていました。

残念ながら、その後のLevi’s社はアメリカ国内での生産がほとんど無くなり、技術開発による生産性向上よりも人件費の低い国での生産という方向に方針が変わっていきました。おそらくそれまで進んでいた生産設備の開発もそれ以降は進まなかったのだろうと思います。

しかし、今回私が購入したブラックジーンズを見て、チェーンファスナー付けの縫製は現在も行われている事を知りました。現在、どのような設備を使用しているのか知る方法はありませんが、この縫製仕様を見た限りでもかなり独自開発したマシンや工程で行われているのだろうと想像できます。

 

② 前立布に接着芯を貼っていない

皆さんがお持ちのジーンズの前立布の裏側を見てください。裏側に接着芯が貼られているでしょうか?

もしも貼られているとすれば、そのジーンズの生産には、とあるジーンズ一派が関わっていると考えられます。(忍者か。。笑)

その一派出身の人間は、とりあえず前立布に接着芯を貼ってしまうという習性があります。私はいろいろなブランドのジーンズをショップで見るときに、とりあえず前立布の裏側を見ます。もしも接着芯が貼られていたら、それは私と同じ流派の人間が生産に関わっているという証拠です。ちなみに以前は某超大手SPAさんのジーンズにもギャルに大人気の某ブランドさんのジーンズにも接着芯が貼られていました。(笑)

なぜ前立布に接着芯を貼ってしまうのかというと、それは今から25年くらい前に、大きな問題が発生したからでした。当時、ジーンズの洗い加工はかなりハードなものが主流で、ストーンウォッシュの時間は60分とか長いものだと90分なんていうのもありました。その頃はまだバイオ(セルラーゼ酵素)が使用されておらず、現在と比べるとかなりストーンウォッシュの時間が長かったのです。

また、当時のデニム生地の流行はかなり激しい表情だったため、デニムには『強撚糸』という文字通り撚りを強くかけた糸が使用されていました。強撚糸を使用する事で、ストーンウオッシュすると独特のシボ感が出て、そのようなジーンズがとても人気がありました。

しかし、ある時、突然に大量の不良品が発生しました。それは、洗い加工した際に前立布のロックが滑脱してしまうという状態で、前立布の生地端のロックミシンの部分がザックリと抜けていました。

この問題は、使用していた生地の糸が強撚糸だった事も大きな要因だったと思います。

また、これはアパレル企業でジーンズなどに関わる方はぜひ覚えておいたほうが良い部分なのですが、『生地が一枚でオーバーロックがかかっている部分は、ロックが抜ける事が多い』という事です。特に前立布の縦の生地端などは経糸に平行にロックがかかっているので、ズボッと行きやすいのです。

似たような部分だと、オーバーオールなどの胸ポケット布の端にオーバーロックをかけてポケット口を二つ折りして、2cmステッチなどを入れた場合にもロックが一枚布にかかっているので滑脱しやすいです。なお、ロックする生地端部分がバイアスになっている部分であれば、生地の織りに対して斜めにロックが入るので、簡単には滑脱しません。

 

そして、前立部分の滑脱を防止できる方法として考案されたのが、『前立布に接着芯を貼る』という方法でした。接着芯を貼ってしまえば滑脱は発生しません。

その後、そちらのジーンズメーカーでは、全てのジーンズの前立布の裏側に接着芯を貼る事になりました。当時、縫製工場ではちょうど良い芯貼り用のプレス機を保有していなかったので、前立布に接着芯を貼るために一括して数十台の芯貼用ローラーブレス機を導入しました。

このような経緯で、前立布に接着芯を貼るという仕様が生まれ、いろいろな所に波及していきました。

しかし、現実的には、前立布が滑脱したのは『たまたま』強撚糸を使用したデニムを長時間ストーンウォッシュ加工したからとも言え、全てのジーンズの前立てが滑脱するワケではありません。また、その問題が発生した後にバイオ(セルラーゼ酵素)の使用が一般的になり、ストーンウォッシュ加工の時間を半分以下にしても同等のアタリ感が出せるようになりました。

そのような事から、本来であれば昨今では前立布に接着芯を貼る必要性はほとんど無くなっているのですが『とりあえず前立布には接着芯を貼っておく』という習性が残っているのです。ですから、メキシコ製Levi’sのジーンズの前立には接着芯が貼ってなくて当然なのでした。

ジーンズの前立天狗の作り方だけでも、ずいぶん色々な方法があるものですね、各ジーンズメーカーが、品質へのこだわりや不良品大量発生といった経験を経て、様々な考えが生まれて仕様の違いとして現れているのだと思います。皆さんもぜひ、ご自身のジーンズの前立布の裏側をチェックしてみてください。(^^)

以上で『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 5 前立て天狗編』を終わりとします。

『ファスナーにはYKKのYG5が使用されている』という部分はまたまた長くなりそうですので、次回とさせて頂きます。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。次回『『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 6 ファスナー編』に続きます。

EDWINの工場の話

最近、ジーンズ業界と日本の繊維業界にとって残念な知らせがありました。エドウインが秋田ホーセグループ4工場を閉鎖すると発表しました。秋田ホーセグループとは、五城目本社工場、大川工場、秋北工場、小坂工場。

私の古巣でもありますので、少しエドウインの工場の思い出話を。

正確な記憶では無いですが、確か2000年くらいかな。当時東洋紡にいらした小島さんが『ケプラーよりも強い糸』と言ってアラミド繊維の〝ザイロン〟を持って来ました。ケプラーとは本当か嘘かは知りませんが『防弾チョッキに使われている』というくらい強い繊維だそうで、東洋紡の小島さん(当時)と親しかった私の上司であったジーンズゴッド小林さんが「ザイロン糸でジーンズを作ろう❗️」と意気投合してしまい、〝ザイロンデニム〟という生地を作ってしまいました。


そして、世界初のザイロンデニムが完成して、秋田ホーセに送られてきたんです。
しかし、ここからが問題なワケです。
そのデニム生地は、緯糸の10本〜20本に1本くらいザイロン糸が打たれている感じの生地で、裏側には黄色いザイロン糸が見えていました。

この生地『裁断できるの^^;』 そりゃそうです。防弾チョッキに使われるほど強い繊維が、ジーンズの生地として裁断できるのか。。

試験反を試しにカットしてみました。結果としては、生地の裁断はできました。その要因としては、秋田ホーセ五城目本社工場にはドイツガーバー社の超ヘビースペックCAM(自動裁断機)が導入されており、しかもカーシート用などで使用される事の多い機械を更に補強して改造してありましたので、マシンスペックが一般的なアパレル用とは桁違いにパワーがあったのです。

更に、わざわざ特注で、CAMのナイフを『超硬刃』という特殊金属で作ったりして、ザイロンが裁断できるように準備を進めていました。

このように裁断までは比較的に順調に進んだのですが、問題はむしろこの後でした。
ジーンズの縫製工程というのは、途中でけっこうカットする部分が多いのです。例えば、ヤマハギを巻いた後に尻を巻く時とか、ベルトを付けた後に余ったベルトを切る工程とか。そして、縫製ラインで、全く切れないんです。ザイロンデニム。。
そりゃそうです。『世界で一番強い繊維』と言われるザイロンは、普通のハサミ程度では切れません。ハサミでザイロンデニムを切ると、デニムの綿糸だけが切れて、黄色いザイロン糸が繋がっているという状態でした。

あとは、ボタンホールの穴なども、穴かがりミシンのメスでカットします。
これらの、縫製ラインでカットする工程では、ほとんど切れなかったのです。

しかし、こういう場合の対応力こそが当時のエドウインの工場の凄いところでした。インターロックのカッターも、穴かがりのメスも、特注の超硬金属で作り、影響がある部分は縫製仕様を見直したり、ミシンを改造したり。
そして、試行錯誤とチャレンジスピリットにより、ついに世界初のザイロンデニムのジーンズが完成したのでした。

《ザイロンジーンズ EZ-503》

《生地の裏面に見える黄色い糸がザイロン繊維》

そのジーンズは、Levi’sの真似でもビンテージの焼きなおしでも、どこかのジーンズのコピーでも無い、本当に世界でオンリーワンのジーンズで、エドウインが独自に開発したそれまでの世の中には無かった全く新しいジーンズでした。

当時、日本国内で名実ともにナンバーワンのジーンズブランドだったエドウイン渾身の新商品ザイロンジーンズは、日本全国500店舗以上のジーンズショップより大量の発注が来ました。 
そしてザイロンジーンズの生産が秋田ホーセ五城目本社工場で始まった頃、誰とも無く言い始めました。


『ザイロンジーンズって、店頭で裾直しする時、切れるんですかね。(゜o゜)』

そうなんです。大変良いところに気がつきました。前述の通りザイロンデニムは、普通のハサミでは切れないんです。

一般的に、日本のジーンズショップさんでは、お客様が試着して、ちょうど良い長さに裾直しして販売するモノなのですが、ザイロンデニムは切れないので裾直しできません。
しかし、ザイロンジーンズはエドウイン 渾身の新商品ですので、今さら販売しないというワケにはいきません。

ちょうどその頃、秋田ホーセでミシンに取り付ける超硬刃の製作について相談をさせて頂いていた会社が、ハサミの世界ではトップクラスの開発力・技術力を持つARSコーポレーションというハサミのメーカーでした。
そして、ARSコーポレーションさんでは東洋紡さんとの取り組みにおいて、アラミド繊維を裁断できるという凄いハサミを開発していたのでした。

アラミド繊維が切れるハサミとは、繊維を断ち切る際にアラミド繊維がしっかりと保持されるように、刃に細かいギザギザが入っていました。そして、独自開発の超硬金属の鋭い刃で繊維を断ち切ります。

 

このハサミ、大変素晴らしい性能ではありましたが、かなり高額でした。しかし、ザイロンジーンズを販売するためには、店舗でこのハサミを使用してもらうしかありません。

それから間もなくして、小林さんが私に言いました。
「ザイロンジーンズ用のハサミをARSコーポレーションに500丁注文しよう。」

ちなみに先ほどネットで調べてみたら、そのハサミは現在も販売されていました。販売価格は一番安くても17,000円くらいします。なぜだか高いお店では59,000!もします。

アルスコーポレーション クラフト370

ARSコーポレーションの方も、発注したら大変驚いておりました。
おそらく、価格的にも用途的にもそんなにたくさん売れるモノでは無いでしょうから、500丁なんて在庫も無いでしょうし。

たしか、記憶ではARSコーポレーションさんに頑張って頂いて3ヶ月くらいで用意して頂きました。
ハサミがワタシのところに届き次第、全国の営業所経由でジーンズショップさんにお届けしました。
もちろん、費用は全てエドウイン 持ちです。おそらく販促品扱いにしたのだと思います。

その後数年して、ザイロンジーンズのプロパー商材としての生産販売が終了してからも「ザイロンジーンズが欲しい」という問い合わせは多かったようです。
たしかその頃は(記憶が間違えているかもしれませんが) ザイロンデニムは自衛隊とのコラボレーションのジーンズとして自衛隊内部のお店や通信販売されていたのと、バイクの世界では超有名なクシタニさんの別注商品として取り扱われていました。

いつだったか、新東名清水NEOPASAで休憩した際に、クシタニさんのショップがありまして、ショップのスタッフさんとお話しした事があります。そのスタッフさんもザイロンジーンズを愛用されており、バイカー(オートバイに乗る方たち)の皆さんの間ではかなり人気があると話して頂きました。

あまりあってはならない事ですが、バイクの運転中に転倒して道路に膝などを打ち付けてもザイロンジーンズは破れません。生地強度の項目として、引裂き強さや摩耗強さは繊維製品の試験機では計測不可能なレベルなくらいの強度だったのです。

故小林氏の『世界に無い新しいジーンズを作る』という理念と、それを形にするデザイン生産スタッフ、そして何より本社の無謀な()アイデアに全力で応える優れた自社工場。 特に秋田ホーセはエドウインの自社工場第一号工場として、エドウインがビッグジョンやボブソンに比べたら全く無名だった時代からエドウイン本社と共に国内ジーンズ業界トップになるまでの歴史を作ってきた素晴らしい工場でした。

UQさんのLAジーンズR&Dセンターで活躍しているM君も、ドクターデニムさんも、今では超人気ブランドとなっているハイクのY君も、モンスターのA君も、その他にも数えきれないほどのジーンズマイスター達が秋田ホーセで社会人としての第一歩を踏み出し、ジーンズの生産の全てを学び、そして世界中で活躍しています。

今回の発表は本当に残念ではありますが、秋田ホーセで研修した頃の下宿生活のつらい思い出や()日本のジーンズ業界に対して秋田ホーセが果たした役割は、みんないつまでも忘れないと思います。

秋田ホーセ、秋北ジーンズ、小坂ジーンズの社員のみんな、長い間、本当にお疲れさまでした。

みんなの元気な顔を見に、また秋田に行きますね。(^^)

 

最後に、秋田ホーセとエドウイン自社工場を心から愛していた方(^^)

故畠山工場長(顧問)

 

2021611日 ジーンズマイスター小泉 

 

チャーのジーンズをダーッとやりてえ♪

今回のブログでは今までと趣向をちょっと変えて、タイトルは『チャーのジーンズをダーッとやりてえ♪』としてみました。

私ジーンズマイスター小泉はチャーさんの大ファンなのでありまして、どのくらい好きかというのは、この写真を見て頂けば私のチャー様への愛が『わかる人にはわかる』って感じかと思います。

 

(写真左 フェンダームスタング ネックデイト NOV 64 シリアルナンバーL50***Aネック)

(写真右 通称気絶ムス フェンダーUSA 1972年製 コンペティションバーガンディブルーメタリック改造)

 

初めてチャーさんを知ったのは13歳の時でした。兄の友人が家に持ってきた一枚のシングルレコード。そのレコードの写真には素肌に白いスーツを着た長髪の男性が写っていて、兄の友人の大西君が「天才ギタリストのチャーがついにデビューした」と昂奮気味に言っておりました。

大西君は兄の友達のエレキギターが上手い人で、私にディープパープルのリードソロなどを教えてくれました。

大西君が言うには、アマチュア時代から天才ギタリストとして有名で、いつどんな形でデビューするかというのは当時のロックシーンでは話題になっていたのだそうです。

初めて聴いたのは『気絶するほど悩ましい』でした。

正直、ロックというにはメローな曲で、リードソロはあるけれど決して派手では無くて、音楽的には良く分からなかったです。しかし、そのルックスのカッコ良さは完全にツボで、その後テレビに登場するチャーさんに夢中になりました。

14歳の時、意を決して神奈川県の田舎町から中野サンプラザまで先輩の女子(15)と一緒に行き、初めてのコンサート、そしてチャーさんのギターを生で聴きました。そのステージで観て聴いた、LPレコードと全然違う激しい演奏にノックアウトされてしまい、それからすでに42年。今年でチャーさん66歳・私が57歳。今でも行ける範囲のコンサートには全て行き、買える範囲で買えるグッズは全て買い、おそらくファッションにもチャーさんの影響が強く表れていると思います。(ぜんぜんちげーますが。笑)  私がジーンズはブーツカットしか穿かないのは、チャーさんの影響なのです。

トップ写真は少し前に発売されたチャーさんのCDMr70’s You set me free】のジャケット写真です。このシルエット。。これこそがチャーさんです。カッコ良い。。ブーツカットのジーンズに帽子(ときに羽根が生えていらっしゃる) 💓 大好きなアングルです。(≧▽≦)

チャー愛を語り始めると延々と続きますのでこのへんにしときますが、今回の内容は『チャーさんのジーンズを作ってしまった人』の話です。

 

ファンの方以外には知られていない事かと思いますが、2018年にチャーさんグッズとして限定100本で

Char × CANTON』コラボレーションデニムという企画がありました。

私としては、この企画を見てすぐにピン!ときて、さっそくジーンズ業界の友人に連絡をとりました。

彼は、ジーンズマイスターと呼ぶにふさわしい、Sと言う方です。以下Sさんとします。

案の定、この企画はSさんが手がけており、何とジーンズを制作するためにチャーさんのお宅まで打ち合わせに行き、チャーさんと一緒に戸越銀座の居酒屋でお酒を飲んだり、「俺のジーンズを作るんならライブを見とかなきゃな」と言われ、二回も招待されたとの事。

私からすると、うらやましいというよりは『神に接近するなどという恐ろしい事をしている人』と言う感じです。

 

そんなこんなで、『Char × CANTON』コラボレーションデニム限定100本が生産され、予約販売されたのでした。ちなみに私は持っていません。(^_^;) いくらチャー好きとはいえ、友人が作ったジーンズを買うのは何かなぁというか・・(-_-;) 値段も高かったし。。

私を含めチャーさんのコアなファンであれば、その頃までチャーさんが愛用していたのはTRUE RELIGIONのブーツカットだという事は知っていたと思います。しかし、残念ながらTRUE RELIGIONというブランドは消滅してしまい、私としてはジーンズにこだわるチャーさんとしては次に穿くジーンズが無くてちょっと困っているだろうなーと思っていました。以前から穿いているのはLevi’s517ブーツカットあたりなのだろうと思いますが、最近のジーンズに比べると股上も深いし、ちょっと違うのかなぁなどと・・

Sさんがチャーさんとお話ししたときにも、やはり「今、ジーパン欲しいんだよ」とおっしゃっていらしたそうで、タイミングはちょうど良かったのだと思います。

ちなみに、Sさんは当時アパレル系商社に在籍しており、『日本で初めて作られたジーンズ』として知られるCANTONジーンズというこだわりのブランドを立ち上げておりました。

ほとんどSさんの趣味でやっているようなブランドでしたが () CANTONジーンズはビンテージテイストにこだわり、機械ではできないような昔の方法で生産するといった、職人気質に溢れるジーンズを作っておりました。

ジーンズマイスターであるSさんがCANTONジーンズについて熱く語ったところ、チャーさんの心をグッと掴んだのだと思います。そのときにチャーさんがおっしゃったのは「最近、フェンダーカスタムショップの工場に行ってギター作りを見る機会があったんだよ。その時に観て感じた、ギターを作っている人たちのクラフトマンシップみたいなのとCANTONジーンズには共通点があると思う。」と言って頂いたそうです。

チャーさんは2011年くらいにCHARIZMAというチャーモデルのストラトキャスターをフェンダーカスタムショップで作っており、その後チャーさんの代名詞でもあるムスタングも作っています。そして2018年くらいというのは、ちょうど愛機1959年製ストラト・バーガンディミストのレプリカモデルが製作された頃で、チャーさんがその頃にカスタムショップの工場に行ったというのはコアなファンであれば知っている事なのでした。

フェンダーカスタムショップ 59’ストラトキャスター

バーガンディミストメタリックレプリカ (かなりのレアカラーなのです。)

 

大変説明が長くなりましたが、先日Sさんとお会いして、ずーっと聞きたかったチャーさんのジーンズについて話をお聞きする事ができました。以下、対話形式と致します。S=ジーンズマイスターSさん K=ジーンズマイスター小泉とします。

K 「まずお聞きしたいのは、あのジーンズに使用しているデニムはどんなものなの?

S 「実は、ちょうどその寸前に、CANTONのビンテージ用に作っていたゴリゴリのビンテージデニムがあって、それを使っているのよ。 だから、実はアンサンフォでスキューも無し」

K ??(@_@)マジで! ってことはセルビッチ用の狭巾で、ブーツカット作ったの?

S「そう。ウエイトは14ozで、テンション弱く織ってあるやつ」

(注)すでに専門用語でが出てきてしまいました。。(^_^;) いずれジーンズマイスターホームページで解説しますが、すごーく簡単に説明しますと、アンサンフォとはサンフォライズ加工(防縮加工)していないデニムという事で、昔の501なんかに使われていたような生地です。サンフォライズ加工が発明された事により、デニム生地は洗っても5%程度しか縮まなくなったのですが、サンフォライズ加工されていないデニムは10%15%くらい縮みます。股下でいうと、10cm以上は縮みます。

スキュー加工とは、ネジレ防止加工の事です。太い糸を使用した綾織の生地であるデニムは、洗うとネジレるという特性があります。スキュー加工を行っていないデニム生地は、洗っていくうちに徐々にネジレて行き、最終的には10%くらいネジレます。昔の501などで、左脇の縫い目が足の正面くらいまで回り込んでいる物があると思いますが、スキュー加工していないジーンズはそうなるのが当然です。

S「チャーさんが、それが良いっておっしゃるので、その生地になりました。」

K「でもブーツカットでしょ? 縮みとかネジレは大丈夫なの?

S「縮みは、パターン作るときに徹底的に縮率をテストして、ワンウォッシュしたときにちょうどチャーさんのサイズジャストになるように作ったから。」

K・・ちなみに、スキュー加工していないネジレの問題は、セルビッチ(耳使い用)の生地なのに耳を使わずにパターンのセンターに地の目を通しているので、そんなに激しくは現れないのだと思います。

K「パターン(型紙)は何を使ったの?

S「チャーさんから穿いているジーンズを2本借りて元にしたんです。一本はTRUE RELIGIONのかなり穿きこまれたヤツで、もう一本は良く覚えていないんだけど、アメリカでプレミアムジーンズが流行った頃のヤツだと思う。

パターンとしては、どっちかというとTRUE RELIGIONじゃないほうがチャーさんモデルに近いかも。

K「結構裾が広いの?

S「いや、そんなに太くない。っていうか、使っている生地が14ozのワンウォッシュなので、生地が硬くてTRUE RELIGIONみたいなフレアーにはならないし。どっちかというと、膝から裾にかけて直線的に広がっている感じ。」

S「一回、サンプル作って、いわゆるプロトを作ったんだけど、それはチャーさんとしてはちょっとNGだったみたい。股上の感じが、ちょっと違う感じだったんだと思う。」

K「確かに、チャーさんが穿いていたTRUE RELIGIONとの時代は股上浅めだもんね。」

S「そうそう。それで、二度目に作って穿いてもらって、OKがもらえたの。」

K「どのあたりが大変なところだったの?

S「一番は股下。とにかく、洗った後に靴を履いてジーンズを穿いて、チャーさんがグッという立ちポーズ取ったときにちょうどピッタリの位置に裾がこないといけない。」

K「それはそうだよね。チャーさんと言えば、エレキギター持ってグッて立った時の姿が世界一カッコ良い人なのだから。股下の長さは大事だわ。。(≧▽≦)

S「でも、アンサンフォなので、その縮み分をパターンに入れて、なおかつまだ残留収縮があるので2cmくらいは長くしておかないといけないし。チャーさんにも、まだ少し縮みますから2cmくらい長くしてありますって説明して理解してもらって。チャーさんご本人も裾の感じは一番気にしていらしたと思う。」

S「あの企画は100本限定だったんだけど、レザーパッチに焼き印が入っているのよ。それは、100本全部、チャーさんご本人が焼きゴテ使って入れてくださって。 チャーさんが〝おう。おれが全部やるよー〟と言ったらカンナさん(奥様)が〝やめておいたほうが良いんじゃない? もしも指ヤケドとかしたら大変よ〟〝だいじょーぶだよ!〟という感じて、結局100本全てに焼き印を入れて頂いて。」

これは、カンナさんのご意見は全く正しいです。もしもチャーさんが指にお怪我でもされたら、世界中のファンを悲しませることになるのですから。(T_T)

という事で。ほー。。(≧▽≦)もう、大ファン・チャーオタクとしては大興奮の話ばかりなのでした。

 

100本限定の貴重なChar×CANTONコラボジーンズは、かなりこだわりのデニム生地が使われていますので、穿けば穿くほど濃淡の効いたカラーと自然なタテ落ちが出る素晴らしいジーンズだと思います。

サイズはチャーさんご本人は30インチ(76cm!細っ!)で股下はチャーさんの長さ(S氏いわく かなり足が長い。)で作られているそうです。

もう入手は無理ですが、全国に100名いらっしゃるチャージーンズをお持ちのチャーオタク・チャーマニアの方、そのジーンズはチャーさんのコラボジーンズというだけでは無く、アンサンフォでスキュー加工をしていないという、超こだわりのデニムで作ったブーツカットです。ぜひカッコ良いエイジングを楽しんでご着用ください!

生地も14ozという最近では珍しいくらいの本格的なコットン100%デニムですので、おそらく一生穿けると思います。(^^)

 

最後になりますが、このブログのタイトルとして盗用した、グループ魂さんの『チャーのフェンダー 本人出演バージョン動画』リンクを貼り付けさせて頂きます。クドカンさんはじめ、皆さんから溢れ出るチャーさん愛がビシビシと伝わってきますね。(無許可リンク失礼致します)

(ちなみにこの動画で穿いているのは珍しくスキニージーンズみたいですね。)

【チャーのフェンダー 本人出演バージョン グループ魂公式チャンネルより】

メンバー全員がチャーさんになってしまうところが好きです。(笑)

JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』

JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』

 

JEANS JOURNEYブログを読んで頂きありがとうございます。『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 すでに 1   2  3 と過去3回の投稿となりましたが、たくさんのアクセスを頂いており 、大変光栄です。

世の中にはすごいジーンズマニアやこだわりの方がたくさんいらっしゃる事と思いますが、私の書く内容はマニアというよりは職業としてのジーンズの話ですので、これほど多くの方に興味を持って頂けるとはビックリです。ますます専門的な内容になって行きますので()ぜひついて来て頂きたいです。(^^)

前回までに、品質表示ネーム、ベルト付け、コインポケット付けを解析してきましたが、続いてはジーンズの裾のほうまで視線を下してみます。

ジーンズのマニアの方達は裾のミツマキ(三巻・三つ巻き)が好きな方が多いですね。それはきっと、こだわりのショップさんなどが古いユニオンスペシャルの裾ミツマキを使用してチェーンステッチでの裾上げをされている事などがあり、『裾上げチェーンステッチ=ビンテージテイスト』というイメージが浸透していった事などが関係しているのであろうと思います。

チェーンステッチの裏側

 

それでは私の購入したLevi’sの裾ミツマキを見てみます。やはりチェーンステッチではありませんね。本縫いミシンで縫われています。やはりビンテージテイストでは無いので本縫いなのでしょうか。

これは、半分正しくて半分間違った解釈と言うべきであろうと思います。

そもそもプロの目線で見ると、実はこれは不思議な現象なのです。それはなぜかと言うと、ジーンズに限らず縫製品というのは『本縫い→環縫い(チェーンステッチ)』へと仕様と設備が変化して行った経緯があるからです。

ミシンを触ったことの無い方には理解にしくいかと思いますが、いわゆる本縫いミシンは、必ず下糸をボビンに巻いてボビンケースに入れるという作業が必要となります。

これはあくまでもウワサで聞いた話ですが、もしも下糸をボビンに巻かないで縫製できるミシンを開発したらノーベル賞級の発明だという事です。

おそらく世界中の繊維機械メーカーの技術者が開発に挑戦した事と思いますが、未だかつて開発は成功していません。

なぜ下糸をボビンに巻かない事がそんなに重要なのかと言うと、世界中の縫製工場や、お子さんの幼稚園用のきんちゃく袋を縫っているお母さんたちも、本縫いミシンを使うときには必ず下糸をボビンに巻かねばならず、特に縫製工場では数本から数十本を縫製するたびに一度ずつボビンの下糸が無くなり、糸を巻いてあるボビンをボビンケースに入れてミシンの下側にセットするという大変手間がかかる作業が世界中の縫製工場とお母さんに発生しているからなのです。

これは縫製する工程によるのですが、糸の使用量の多い工程では作業時間の5%程度が下糸交換のためにロス時間になっていると言われています。また、縫製箇所の途中で下糸が無くなってしまうと、縫いつなぎになるので見た目も悪く、縫い目の強度も落ちてしまい製品の品質に大きな影響があります。

このような理由から、縫製工程というのはなるべく環縫いで行ったほうが生産性が高く、特に価格の低いジーンズやワークウエアなどでは環縫いが多用されています。

逆の見方をすれば、高級な衣料品ほど裏側に環縫いが出ている部位は少ないと言えます。百貨店でオーダー製作したワイシャツなどは、ほとんどの行程が本縫いで作られていると思います。

高級なワイシャツの裏側

 

話は戻りますが、私が購入したジーンズは本縫いで裾上げされていました。そもそも環縫いの裾ミツマキのミシンは過去より存在しているわけですから、環縫いで裾上げしたほうが生産性は高いはずです。それではなぜ、最近生産されたLevi’sジーンズの裾上げが本縫いなのでしょうか?

この答えは、環縫いという仕様の特性による、ある問題が原因と考えられます。それは、『環縫いは縫い終わり側から下糸を引っ張るとほつれる』というものてす。

環縫いの縫い目はニットなどに似ており、糸を輪っかにして編むように縫い進んで行きます。そして、縫い終わりの糸は編まれた輪の途中ですので、引っ張るとポロポロと解けていきます。

これはジーンズの裾ミツマキにも当てはまり、縫い終わり部分で縫い始めのステッチと重ねて縫製して、糸を切ってしまうので、縫い終わりの糸端がそのままの状態になっています。この糸端を引っ張ると、環縫いの裾ミツマキは面白いように解けてしまいます。

ここまでの説明だと『簡単に解れてしまう縫い方ならば、なぜ一般的な衣料品は本縫いから環縫いに変わって行ったのか?』という疑問が生まれると思います。この部分については、ご自身の持っている環縫いで縫われているGジャンやワークシャツなどを見て頂くとお分かり頂けると思いますが、その理由は『環縫いで縫われている部分は糸の端が露出していない』事が使用箇所の条件になっているからです。

Gジャンやワークシャツなどでは、身頃の切り替え部分や袖下から脇など、さまざまな箇所で環縫いが使用されていますが、全ての箇所で糸の端は縫い代の中やベルトやカフスの中に入っているはずです。環縫いを使用している行程では糸端が露出しているという状況はほとんどありません。

このような事から、過去には存在していた環縫いの裾巻きミシンは徐々に廃れていき、世界的に見るとジーンズの縫製工場で使用されている裾ミツマキのミシンは本縫いが主流となっていきました。

 

【チェーンステッチミシンを使用する場合の対策】

現在では、環縫いの裾ミツマキミシンにおいて、縫い終わりの縫い目がほつれないような機構が付いた物が開発され、日本のミシンメーカーさんより発売されているようです。この機構はおよそ20年ほど前に、私と旧ユニオンスペシャルジャパンの山本氏(故人)が開発した、縫い終わり部分で糸切りペダル(かかと側)を踏むと針板をシリンダーで持ち上げ、縫い目を細かくして数針縫ってほつれを防止する、ショートステッチ機構という装置が元になっています。この開発によって、それまで洗い加工で多発していた裾ミツマキのほつれはゼロになりました。

このような最新のミシンを使用すればほつれの問題は無いのですが、なかなか最新式の裾ミツマキのミシンを所有している縫製工場さんは無いと思います。チェーンステッチミシンを持っているとしても、おそらく旧ユニオンスペシャル34500や43200などのかなり古い物が多い事でしょう。

 

BLUE ROUTEさんの ユニオンスペシャル34500

 

それでは、古いチェーンステッチミシンで裾ミツマキを縫製する場合にはどのような対策を取ったら良いでのでしょうか?

一般的に行われている方法としては、『縫い終わりの側の糸を結ぶ』という方法かと思います。縫い終わり部分を長めに縫っておいて、数センチ程度を解いて下糸と上糸(下側に抜く)を結びます。また、チェーンステッチは特性上、環縫いの輪から下糸を引き抜くだけでほつれは止まりますので、洗い加工などがある場合には、下糸を輪から抜いて糸を絞めておくだけでもほつれは発生しません。

 

【現在でも購入できる裾上げ用チェーンステッチミシン】

過去には縫製工場で使用していたユニオンスペシャル34500の中古品を店舗で使用できるように改造して、ショップ用として販売されていた時期がありました。しかし、だんだんと中古ミシンが無くなって来たので、およそ15年くらい前にペガサスミシンさんに依頼して、ショップ専用裾ミツマキチェーンステッチミシンを製作して頂いた事があります。

そもそも工場で使用していたミシンはモーターの電源が三相200Vであり、押さえ上げ機構やバインダー開閉もエアーコンプレッサーを使用して作動する構造でしたので店舗用に改造する必要がありました。

そのためショップ用裾上げミシンは、家庭用として使用されている100V電源のモーターをセットし、押さえ上げ機構やバインダーの作動は脚で動かすペダルを取り付けています。

基本的な動作(バインダーの開閉など)は工場で使用されている裾ミツマキミシンと同一であり、縫い上がりの状態もジーンズマニアの方たちが好むような、少しねじれてパッカリングが出る感じになります。

【ビンテージ風なパッカリングはチェーンステッチでは無いと出ないのか】

チェーンステッチの裾上げを好む方たちの意見としては、チェーンステッチミシンで縫うと裾にパッカリング(ねじれ)が出て、洗い込むと味のある雰囲気になるとおっしゃいます。この解釈は、半分ほどは正しくて半分ほどは誤解があると私は思っています。(私見です。)

確かにチェーンステッチで裾上げされた場合にはパッカリングが発生して洗うとデコボコ部分にアタリが出て味がある雰囲気になります。しかし、その理由はチェーンステッチミシンで縫製したからというよりも『バインダーを使用してミツマキしたから』なのです。ジーンズショップさんなどで本縫いミシンで裾上げしてもらう場合には、手で三つ折りして本縫いミシンで縫いますので、パッカリングはほとんど出ません。そういう意味では本縫いミシンで裾上げするとパッカリングは出ません。

しかし実は、縫製工場で使用されている裾上げ用本縫いミシンは、チェーンステッチミシンと同じ機構でミシンが本縫いなだけという機種があります。ですので、チェーンステッチミシンと同じようにバインダーを使用してミツマキするので、若干のねじれが出てパッカリングが発生します。

つまり、ビンテージテイストの裾のパッカリングはチェーンステッチという理由よりも、バインダーによって発生しているというのが正しい解釈かと思います。なお、チェーンステッチの糸調子によってよりパッカリングが発生しやすいという理由もあるかとは思いますが、それは使用する糸の種類や糸調子によって変わります。

 

なお、この記事を書きながら『以前ペガサスミシンさんで作ったショップ用チェーンステッチミシンはまだ入手できるのか?』と思いペガサスミシンさんに問い合わせたところ、それほど台数が売れるミシンでは無いので基本的に受注生産となるようですが、現在も取り扱いはあるそうです。

もしも興味がありましたら、下記『ペガサスミシン』さんにお問い合わせください。

ペガサスミシンさん ホームページへ https://www.pegasus.co.jp/ja/

当時のパンフレット W664-21ABx100/UT/Y

上記内容について、間違えているというご意見やどなたかの権利に抵触している部分がございましたら、以下メッセージ欄にコメントをお願いします。ご意見やお申し出をふまえて修正致します。

この先は『ジーンズマイスター小泉 ジーンズを買うの巻 5 』に続くのですが、次回は一回内容を変えて『Charのジーンズをダーッとやりてえ やんないけどね♩🎸』をお送りする予定です。Charさんのジーンズを制作した方のインタビューを掲載予定です‼️😆