FISMA TOKYO(東京ファッション産業機器展)視察したらカンスペさんがすごかった!
10月3日~4日に東京ビッグサイトで開催された、58th FISMA TOKYO(東京ファッション産業機器展)を視察させて頂きました。こちらの展示会は東京都ミシン商工業協同組合様が主催、東京都が共催している縫製機器を中心とした展示会で、確か以前は東京ミシンショーという名称で開催されていたと記憶しています。
東京という名称が付いていますが、出展企業は東京だけではなく全国の主要なファッション産業機器関係の企業が集まる、JIAMショー(国際アパレル機器&繊維産業見本市)に次ぐ大規模な総合展示会です。
このような展示会は、もちろん各社が最先端技術や新しいアイデアを投入した最新の機器を視察する事が目的ではあるのですが、業界のお祭りみたいな雰囲気もありまして、2年ぶりに会う人や5年ぶりに会う人、10年ぶりにお会いして、ご高齢になっても現役で頑張っていらっしゃる元大手ミシンメーカーの役員だった先輩などとも偶然お会いできた、私にとっては楽しいイベントです。
今回の訪問の目的のひとつは、私がアドバイザーとしてお手伝いさせて頂いているアズマ株式会社様の【キンバスパンサスティナブルアクション】という取り組みについて展示されているそうなので、ご挨拶を兼ねて見に行きたいという事でした。
【キンバスパンサスティナブルアクション】についての詳しい説明は今回は省略しますので、ぜひ検索してみてください。正式なインスタグラムもありますので、ぜひご覧ください。とりあえず、私が最近に手掛けたのは、新宿の文化服装学院様の生産管理実習室に【Kinba spun】というブランド表示を掲げた専用の工業用ミシン糸の棚を設置させて頂いたという取り組みです。
文化の学生さんたちが、作品作りにキンバスパンを使ってくれて、卒業してアパレル企業に入社してキンバスパンをたくさん使用してくれると良いのですが。
アズマ株式会社様は工業用ミシン糸の販売だけでなく、顧問にアパレル業界のレジェンドを揃え縫製技術アドバイスを行ったり、アパレル業に携わる方が気軽に利用できる最新CADやミシンなどを設置したスペースを社内に設置しており【アズマソーイングコネクション】という取り組みも積極的に行っております。
展示会当日も、工業用ミシン糸屋さんとしてはかなり広い出展スペースで展示を行い、たくさんの来訪者で賑わっておりました。
アズマ株式会社様の出展ブースの様子
キンバスパンサスティナブルアクションの紹介コーナー
もちろん私としては、JEANS MEISTER®としてジーンズに関わる機器の最新事情を常にチェックしておきたいのです。ジーンズ業界に30年以上関わっていますので、だいぶ古い時代の事も知っております。
以前はこのような縫製機器の展示会では、展示会場の一部の区画が【JEANS】エリアだったり、ミシンメーカー様のブース内に【JEANS専用機コーナー】があったりしました。特に海外ではジーンズの生産はかなり大規模な産業ですのでジーンズ専用エリアはかなり充実した内容でした。出展企業もJUKIさんやPEGASUSさんを始めとする日本のミシンメーカー様や、欧米企業も多数出展されておりました。
各社が新しいアイデアや技術を投入したミシンや、ベースのミシンをオリジナル改造した自動機など、見ているだけでもワクワクしたものです。
なので、今回もジーンズ用ミシンはどんなになっているのだろうと楽しみにして視察したのですが、残念ながらJUKIさんもPEGASUSさんもジーンズ用のミシンは展示されていませんでした。(見逃していたらすみません。)
会場内を歩き回り、ジーンズやデニム生地を扱っているブースを探していると、まず目に入ったのはオルガン針株式会社様の壁にかけられているジーンズの写真でした。
オルガン針株式会社様の展示
ジーンズの縫製というのは、アパレル製品の中でもかなり過酷な条件となります。アイテムとしてはカーシートと同じレベルの厚さや硬さとなります。ですから、使用する針の選定はかなり難しい(過去は難しかった)のです。
そんなジーンズ縫製用のミシン針に、様々な革新的技術を投入したのがオルガン針様でした。30年くらい前、当時まだお若かったオルガン針開発担当のTさんが中心となり熱意を持ってジーンズ用ミシン針を開発されました。当時、私もいろいろなテストをお手伝いさせて頂きました。
現在Tさんはオルガン針株式会社様の開発担当役員になられているそうです。オルガン針株式会社様のジーンズ用ミシン針に対する姿勢は素晴らしいと思います。
そして、さらに各社のブースを見て回っていると、おお!ありました!ジーンズだらけのブースです。
そちらの企業は【KANSAI SPECIAL】様。もちろん有名なミシンメーカー様で、私もジーンズメーカー時代にはいろいろとお世話になりました。一般的には【カンスペ】と略されて呼ばれる事が多いので、私の文章も以降カンスペさんと記載させて頂きます。
私が印象に残っているのは、カバーリング用ミシンかな。カバーリングというのは、ジーンズの前ポケットの向こうあて布を袋地に縫い付ける工程です。
カバーリング仕様
ジーンズの向こうあて布付け工程の縫い方は時代によって結構変わるのです。たぶん元々は向こうあて布の下をアイロンで折って本縫いミシンで付ける方法だったようですが、次にオーバーロックして本縫いで縫い付ける方法が出できました。
そして、次に現れたのがカバーリングという縫い方で、向こうあて布の下側をかがりながら同時に袋布に縫い付けるという方法でした。
このカバーリングという方法であれば、それまでオーバーロックして本縫いで縫い付けるという2工程を一度でできてしまうので、生産効率が高いのです。
カバーリングという方法がいつ、どこで開発されたのかは良く分かりません。私は勝手に、日本でジーンズ生産が始まってからではないかと思っていたのですが、友人が持っているビンテージジーンズの向こうあて布付けがカバーリングで縫われていたのを見て、日本発では無いのだと知りました。
話はカバーリング方向へと脱線してしまいましたが、今回カンスペさんが展示していたのは、ジーンズ専用の巻き縫いミシン・ベルト付けミシン・裾三巻ミシンなどでした。
以下、ミシンはパッと見ただけですが、私が注目したポイントを簡単に説明します。
① ベルト付け
ジーンズのベルト付けにもいろいろな方法があるのですが、たぶん一般的に行われるのはベルト先端をベルトを先引きローラーまで入れて、ベルトがつながった状態で縫い始め、ベルト縫い終わり側だけ織り込んで作るという方法かと思います。
この場合、ベルト縫い始め部分は縫われてしまうので、30年ほど前は次の工程でベルト先を作るときにベルトの余り部分をカットして、縫い目をほどいたりハサミで割いたりしていました。
この作業はけっこう手間がかかり、縫い上がりもあまりキレイでは無いという短所がありました。
その後開発されたのが、縫い始め部分の縫い目を『縫わない』という、目飛ばし機構の開発でした。この目飛ばし機構にもいろいろな機構があるようですが、いわゆる『カラカン』という状態で糸を引き出せる『目飛ばし』機構でした。
目飛ばし機構を使えば、ベルト先を作るときに縫い目をほどく必要はなくなりますので、生産効率が格段に上がります。
今回展示されていたカンスペ様のベルト付けミシンは、ベルト先をカットするギロチンカッターと目飛ばし機構がブラッシュアップされているようでした。
ジーンズ専用機がほとんど展示されていない状況の中で、ジーンズのベルト付け専用機の開発を続けていらっしゃるのは素晴らしいですね。
カンスペ ベルト付けミシン
目飛ばし機構
② 巻き縫い
ジーンズ縫製の最大の特徴は『巻き縫い』であるという事は以前
『EXPERIENCE AND KNOWLEDGE/Sewing』コーナーで語っているのですが、巻き縫い用のミシンがないとジーンズは作れません。
古くはユニオンスペシャル358がメインとして使用されていましたが、その後、JUKIさんのMSシリーズやPEGASUSさんのFVシリーズなどがユニオンスペシャル358の後継機種として使用されるようになりました。
どのミシンもそれぞれに素晴らしい性能ではあるのですが、ミシンショーでは残念ながら展示されていませんでした。そんな中、カンスペさんがジーンズ専用巻き縫いミシンを出展されておりました。
ミシンのスタイルは、ユニオン358タイプでは無くてJUKIさんのMSのような腕タイプです。現在では世界のジーンズ縫製においては腕タイプのほうが主流なのかもしれません。
カンスペさんの巻き縫いミシン
注目ポイントは、ズバリ!ラッパの美しさです。巻き縫いという工程は、ミシンの性能以上にラッパ(バインダーともいう)の精度が重要なのです。このラッパという物、なかなか機械で簡単に作れるものでは無く、ほとんどが職人さんの手曲げだと聞いた事があります。ラッパの精度というのはとても大切で、生地の厚さやベルト幅などで手作業で調整しながら作っていきます。まさに職人芸です。
今回ペガサスさんが出展されていたベルト付けミシンのラッパがピカピカと大変美しく、JEANS MEISTER小泉としては萌え萌え(古いか。。)なのでした。
巻き縫いのラッパ 萌え萌え
③ 裾三巻
ジーンズ専用の環縫い裾三巻ミシンです。皆様良くご存じのとおり、なぜだかジーンズの裾三巻は環縫い(チェーンステッチ)の人気が高いのです。
このあたりの話も以前ブログで語ったことがあるので、興味がある方はご一読ください。
JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』
以前のブログにも書いたとおり、環縫いの裾巻き工程には『縫い終わりからほつれる』という面倒くさい欠点がありまして、今でもどこかの国のジーンズウォッシユ工場で「裾がほつれた」と問題になっているかもしれません。ジーンズ生産あるあると言っても過言ではない環縫い裾三巻のほつれを防止するために、世界中のジーンズ縫製関係者がいろいろな対策を考えていると思います。
そんな問題を解決する機構として、ショートステッチがあります。この縫い方はその名のとおり、縫い終わりで縫い目の間隔を細かく潰し気味にして、団子状態にすることでほれにくくするという機構です。
なお、この仕様は元々トランクスのゴム付けミシンなどに用いられていた方法らしく、そちらの正式名称はコンデンス機構といいます。ですから、今回のカンスペさんの展示機種もコンデンス機構という名称で紹介されています。
なおかつ、カンスペさんの裾三巻は現在も進化を続けておりまして、カタログには『コンデンススティッチ機構とトリプルスティッチロック機構により縫い終わりからのほつれを減少させます』と記載されております。
当日はトリプルスティッチロック機構について詳しくお聞きすることはできませんでしたが、現在も環縫い裾三巻のほつれ問題にしっかりと向き合っているカンスペさんはジーンズ縫製の業界にとっては頼もしいミシンメーカーさんだと感じます。
カンスペさんは『KANSAI SPECIAL』というブランドで工業用ミシンを製造販売されている企業で、企業名は『株式会社森本製作所』様です。創業1957年、MADE IN JAPANにこだわりを持つ歴史ある老舗企業で、現在は日本のみならず、ドイツ・アメリカ・シンガポール・上海・バングラデシュにも海外子会社とネットワークを持つグローバル企業です。
近年は南米向けの販売も伸びているとの事で、展示会に参加されていたスタッフの皆さんも若い方が多く、活気ある雰囲気でした。
日本国内でのジーンズ生産は、残念ながら減少の一途となっているようですが、ジーンズは世界中で生産され愛用されています。生産国はベトナム、バングラデシュ、トルコ、チュニジア、中南米へと拡大しており、各国のジーンズ工場が生産性競争にしのぎを削っています。KANSAI SPECIAL、株式会社森本製作所様が、これからもジーンズ縫製、アパレル生産の分野でますますグローバルに飛躍される事を心よりご祈念申し上げます。
KANSAI SPECIAL https://www.kansai-special.com/ja/
最後になりますが、文章内において間違いやご意見などございましたら、JEANS MEISTER®小泉までお知らせ頂けますと幸いです。