ジーンズの生地である『デニム』とは?デニムがもつ【三大欠点】とジーンズの関係について。ジーンズマイスター の考える『良いデニム生地』の条件とは。

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デニム生地とジーンズの歴史を知る

【デニム生地の起源】

ここではジーンズの生地であるデニムについて取り上げます。

デニムの起源というのは本当に諸説あって、何が正しくて、いつが現代的なデニムの誕生なのか、正直良くはわかりません。また私はビンテージジーンズマニアではありませんので、年代ごとの正確なディティールなどにも詳しくはありません。この点は最初にお断りしておきます。

【ジーンズの起源】

私の知る限り、ジーンズの原型となったと言われているリベットで補強したズボンは、1849年(正確には1948年)のアメリカゴールドラッシュをきっかけに生まれたことは間違いなさそうです。アメリカのサンフランシスコで大きな金鉱がみつかり、世界中から文字通り『一攫千金』を求めた男たちが集まってきました。アメリカンフットボールのチームでサンフランシスコ49’ersというのがありますが、まさに1849年にサンフランシスコに集まってきたフロンティアスピリット溢れる男達を表す名称だと思います。

【ブルージーンズの登場】

ジーンズの原型ともいえる初期のズボンは、元々使用されていたのが馬車の帆布だったことから生成り色、またはキャンバス生地だったと思われます。織組織はサージ(いわゆるセルジュ・ド・ニームと呼ばれていたイタリアセルジュ地方の綾織り生地)だったそうです。

おおよそジーンズらしく無い茶色い生地が、いつから現代的な『ブルーデニム』になったのか正確なことはわからないのですが、『オールド・ジーンズ ワールドムック社 マイケル・A・ハリス著 訳中村省三氏』の写真を見ると1870年代半ばくらいのジーンズの写真には青いデニムっぼい生地のズボンが写っていますので、リーバイスが特許を取得した1873年あたりにはブルージーンズの原型が生まれていたと考えて間違いなさそうです。

なお、この点についてはアメリカで『初めてブルージーンズを作ったのはリーバイスではない』と主張されている会社があると聞いております。もしかしたら本当はそうだったのかもしれません。

JM小泉が考える「良いデニム生地」とは?

現在世界中でデニム生地のジーンズが着用されており、様々な価格帯やブランドの違い、スタイルの多様化によってどんなデニム生地が本当に良い生地なのかという尺度は一概には言えません。着用する人が満足する生地であれば、それは良いデニム生地だと言えると思います。

しかし、ジーンズマイスター小泉としては、あえて私の考える『良い生地』について知って頂きたいと思います。

【デニム生地の違いをラーメン屋に例えてみる】

少し例え話をします。近所にラーメン屋さんが二軒あったとします。一軒は大手ラーメンチェーン店で、味もまあまあ美味くて特に不満はないレベル。このお店は価格が安いので、いつもすごく混んでいます。食べ盛りのお子さんのいるファミリーにとっては手軽でお腹がいっぱいになってとても助かるお店です。

もう一軒のラーメン屋さんは個人の経営者がやっているお店です。このお店のラーメンは、とにかく麺が美味しい。モチモチとした食感と微妙に縮れて鶏ガラだしのスープが絡む、あきらかに近所のチェーン店とは違うものです。価格はラーメンとしては高いのですが、美味しくて評判が高く、お店の前にはいつも行列ができています。

この二軒のラーメン屋さんの麺は、似ているようで全然違うものです。そしてこの違いが、価格の差として現れます。

個人経営のラーメン屋さんの店主は、自分のお店を開店する前に修行をしていた頃に材料問屋やメーカーの方たちとも懇意になり、いろいろと教えてもらいました。そしてわかったことは、ラーメンの原材料となる小麦粉や出汁の元となる食材には、産地や値段が違うものがたくさんあり、品質にずいぶん違いがあるというということでした。

お店で出すラーメンにおいて、一番大事なのは原材料です。原材料によって味も価格も、場合によっては安全性も大きく変わります。

個人経営のラーメン屋さんでは、価格は高いですが店主が求める食感や風味を追求しつつ、価格ギリギリの高品質な材料を使用していました。

【繊維長の長い綿とジーンズ】

実は、ジーンズに使用されるデニム生地もこのラーメン屋さんの例え話と同じような部分があるのです。

ジーンズとは、基本的なデニム生地には綿素材が使用されています。綿の生地には綿花から取れる【ワタ】が使用されています。そして、【良いワタ】は品質が良くて価格も高く【それほど良くないワタ】は品質はほどほどで価格も手頃という、当然とも言える傾向があります。

これは、ラーメン屋さんと同じで、ジーンズとしてどちらが良いとか悪いとかいう話ではないのですが、良いデニム生地の条件①として、良いワタが使用されているものであるということをあげたいと思います。

繊維の世界の一般常識としては、『繊維長の長いワタ』を【良いワタ】ということが多いです。そして『繊維長の短いワタ』は【それほど良くないワタ】の分類になります。繊維長が極端に短いワタの中には栽培の過程で天候や病気など何らかの影響を受けてしまった【未成熟綿】や紡績工程の中で、短すぎて機械から弾き飛ばされてしまう【落ちワタ】などがあります。

余談ではありますが、2010年から2012年ごろの一時期に1000円を下回るジーンズというものが世間の注目を集めたことがありました。当時はマスコミなどでは「これからは1000円以下のジーンズを作れないメーカーは生き残れない」とか言われておりましたが、結局現在では1000円ジーンズは全く残っていません。マトモに原価を計算したら、そのような価格のジーンズが継続する訳がないのは当然のことです。

私はその頃、某GMSの880円ジーンズを購入してデニムのワタ(繊維)を分析したことがあるのですが、未成熟綿や落ちワタと思われる、繊維長が10mmくらいの粗悪なワタがたくさん混ざっていました。

ワタの繊維長とは以下のように分類されます。(カイハラ株式会社作成 『デニムができるまで』より引用)

【ジーンズにふさわしい綿繊維を見極める】

繊維業界とは関係のない一般の方が耳にする機会があるとすれば、ワイシャツなどでときどき使われている『海島綿』や高級な綿バンツなどに使われることのある『スーピマ綿』などでしょうか。これらは『超長繊維』や『超長綿』として分類される綿の繊維で、細くて長いことから糸にした場合にも細くて丈夫な糸となり、生地を作った際にコットンらしくない薄さと光沢、強度を併せ持つ高級な素材となります。

ただし、ジーンズ用のデニム生地に使用するワタは必ずしも細くて長ければ良いというものではありません。

ジーンズに求められるワタの繊維に求められるのは、ジーンズにふさわしいワタです。この点について、私が知る限り日本で一番デニム生地の事にお詳しい元カイハラ株式会社の大久保氏は『繊維長が長ければ(超長綿などが)良いとはいえない。ボリューム感・強力があり染色して芯白性(糸の外側が染まって内側が染まっていない状態)のあるもの』が良いとおっしゃっておりました。

ジーンズのデニムにふさわしいワタの繊維に要求されるのは、中長綿程度の十分な繊維長がありボリューム(太さ)がしっかりしていること、そして大量に調達した際に安定した繊維であること(安定した栽培方法である事)などが上げられると思います。そして一番大切なのは、それらのワタから作られた糸をデニム生地にしたときに安定したスペックや強度を実現できることであると思います。

この項目で最初に述べましたジーンズマイスター小泉の考える『良いデニム生地』の一つ目の条件とは、ジーンズにふさわしい綿繊維が原料として使用されているもの、ということになります。

それでは『良くないデニム』ということになる、粗悪な綿を使用したデニム生地のジーンズはどうなるかというと、特徴的な現象として2~3回穿いたくらいでヒザがポッコリと出っ張ります。このヒザポッコリ現象は、良いデニム生地でも多少は現れるのですが、良いデニム生地の場合にはお洗濯するとキュッと戻るのです。(再現性があると言います。) ですが、良くないデニム生地の場合には洗濯してもそのまんまで、出っ張ったヒザが戻ることは二度とありません。これは、糸を構成している綿の繊維が糸としてしっかりと絡み合っていないため、一度緩んだら戻れないからということになります。

もちろんジーンズの好みも人それぞれですので、ヒザがポコッと出っ張ったジーンズをカッコよいと思われる方にとっては、それはそれでよろしいのであろうと思います。

デニム生地に使用される糸

【リング精紡と空紡精紡】

前の章で、デニムにおいては原料である綿(コットン)の材質が大変重要と書きました。コットンの繊維長が長いものと短いものがあり、短い繊維ではうまく紡ぐことができず、できあがった糸は繊維がしっかりとつかみ合っていない糸になってしまいます。あまり短い綿を使用すると品質の低いデニム生地になってしまいます。

しかし、ジーンズが作業着として世界で普及していく中ではより価格の低い生地を大量に供給することが求められました。そのため、従来の紡績方法であるリングスパン精紡とは全く異なる技術による紡績技術がジーンズにも導入されました。その方法は空気精紡という方法で、その名のとおり『空気の力を利用して糸を作る』方法であり、「くうぼう」「オープンエンド」「OE」などと呼ばれています。

【空気精紡・オープンエンド(OE)の特徴】

空気精紡で作られた糸の概念を分かりやすく理解できる例えとして、私の師である故小林さんは『綿あめ』の作り方を上げていました。綿あめとは、砂糖を溶かして綿のようにしたものを、空気の遠心力で回転させて棒に巻きつけていきます。

遠心力で回転する際に、長く重い繊維は空気の力で外側に飛ばされ、短い繊維は軽いのであまり飛ばずに内側を回転します。

この原理を精紡の方法に置き換えて考えると、回転しながら糸になる際に長い繊維は外側に、短い繊維は内側に入っていきます。つまり、空気精紡では比較的短い繊維であっても内側に入っていくので糸の原料として使用できるということになります。

また、空気精紡ではリング精紡で行われる粗紡や精紡といった工程を省略できるため、リング糸と比較すると低コストで大量生産がしやすくなります。

【ジーンズにふさわしい糸とは?】

リング精紡、空気精紡とも優れた部分がありますし、完成するジーンズの価格帯やテイストによって選択すべきことですので、どちらがジーンズにふさわしいとは言い切れません。しかし、一般的に物性(強度)や染色堅牢度色などの品質面についてはリング精紡糸のほうが高い数値となります。

また、ビンテージジーンズと呼ばれる分野において『タテ落ち』と言われる、経糸が線状に色落ちする表情はリング精紡糸独特の色落ちであり、空気精紡糸では糸の強さや染色性などによりタテ落ちはほとんど発生しません。(これは私見です。)

【ビンテージ501に使用されている糸】

ビンテージジーンズの分野ではLevi‘s 501の古い年代の物の人気が高く、501XXから66と呼ばれるタイプまでの501の色落ちに人気がありますが、501の66と呼ばれているタイプ生産時期の途中よりリング糸から空紡糸に変わっていますので、66の途中から現在販売されている501ではタテ落ちは見られないと思います。なお、501のデニムがリング糸から空紡糸に変わった正確な時期は、元Levi‘s JAPAN社の関係者の方によると66タイプ後期くらいで1976年ごろではないかということです。

デニムのクオリティとは

【膝抜け】

ジーンズに限らずトラウザースなどのパンツにおいて、『恰好悪い』と思われるものに『膝抜け』と言われる膝が出っ張った状態があります。どんなにオシャレなジャケットを着ていても、パンツの膝がポッコリと抜けていては「パンツは何年もずっと同じものを穿いている」と思われます。

膝抜けは、着用時に膝の曲げ伸ばしをすると、ある程度はどのようなパンツでも発生してしまいますが、ジーンズにおいては膝が抜けやすいものと抜けにくいものの差はかなりはっきりします。この違いの原因として、リング糸か空紡糸かの違いという要因は大きいです。

膝抜けは、着用時に膝の曲げ伸ばしをすると、ある程度はどのようなパンツでも発生してしまいますが、ジーンズにおいては膝が抜けやすいものと抜けにくいものの差はかなりはっきりします。この違いの原因として、リング糸か空紡糸かの違いという要因は大きいです。

リング糸を使用したデニムは、原料の綿繊維がしっかりと紡がれているので、膝の伸縮などの際にも糸が伸びにくく、膝抜けの現象が出にくい傾向となります。一方、空紡糸を使用したジーンズは糸のリング糸と比較すると糸が伸びやすいため、短時間の着用でも膝が抜けやすい傾向となります。

また、リング糸を使用したデニムにおいても長時間の着用により、ある程度の膝抜けは発生しますが、膝の出っ張りは家庭洗濯する事によりかなり戻ります。(糸の回復力があると言います)

【高品質な空紡糸】

なお、これまでの説明によりリング糸=膝抜けしにくい 空紡糸=膝抜けしやすい という理解になってしまうかと思いますが、空紡糸であっても原料として使用されている綿の品質が優れている場合には、リング糸と同程度に再現性のあるデニムを作ることは可能です。

もう30年くらい前のことですが、私の経験としてもアメリカ製デニム生地で作られたジーンズの膝が洗濯すると真っ直ぐに戻り、その糸が空紡糸だと知って驚いたことがあります。その生地はアメリカ、バーリントン社のデニム生地でした。おそらく当時のアメリカ製デニムは空紡であっても、高品質な米国産の綿が使用されていたのだと考えています。当時のバーリントン社が使用していたかは分かりませんが、カリフォルニアのサンフォーキンバレーで収穫されるコットンは、繊維の強度が高くボリューム感がある高品質なコットンとして広く知られています。

【ジャパンデニム】

世界的に評価の高い『ジャパンデニム』と呼ばれる日本製デニムは、基本的にリング糸で作られた生地であると理解しています。(私見です。)

日本では古くから、労働着としての綿の衣類が着用されてきました。特に綿花栽培や絣生地などの産地であった岡山県や広島県(三備地方)などでは、糸を紡ぐ技術を伝統的に持っていたので、昔からの綿糸作りの技法からリング糸の製造へと進化しやすかったのだと考えられます。

欧米のジーンズが、大量かつ安価な生産方法に進んでいった中で、日本のデニムメーカーがリング糸にこだわって高品質なデニムを作り続けたことが、世界から評価されたのだと思います。

某欧米ブランドのジーンズで、フラッシャーに【JAPANESE RING SPUN DENIM】と記載されているものをみたことがあります。良質なコットンを厳選し、リング糸にこだわり、世界最先端の設備と技術を駆使して作られる日本のデニムが世界中から高く評価されるのは当然のことだと思います。