ジーンズにおける品質は、様々な基準をクリアしなければなりません。基準を知ることで、何が求められているのか、どのように対処すべきかがわかります。

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ジーンズの品質試験、基準値、問題への対応について

このページでは、ジーンズの品質基準と私が経験した事例について、できるだけわかりやすく説明します。なお、わかりやすく説明するため、若干正確性に欠ける部分や説明が足りない部分ができてしまうかと思います。専門的な知識が必要な方は、QTECさん(一般財団法人日本繊維製品品質技術センター)やカケンさん(一般財団法人カケンテストセンター)のセミナーなどに参加して勉強することをお勧めします。

第一回目として取り上げるのは、『染色堅牢度』という品質基準についてです。染色堅牢度とは、その文字のまま、染色性の堅牢さを数値化したものです。

■ 「染色堅牢度」とは?

そもそも染色堅牢度とは何なのかというと、JIS規格で定められた方法に従って試験を行った結果のことです。JIS規格とは『日本産業規格』という経済産業省管轄の、あらゆる産業製品に対する性能に対する性能試験方法や基準数値が定められており、繊維・アパレル分野の規格はJIS L シリーズとして定められています。

お時間がある方はぜひ、日本規格協会という組織の建物(東京都三田)に行っていただくと、あらゆるジャンルのJIS規格ライブラリや販売窓口があり、大変興味深く時間を過ごせます。ちなみに、後述する生地・アパレル製品のJIS規格に従った試験に用いる、グレースケールといった試験判定用のツールや試験に使用する白い生地(カナキン3号)なども日本規格協会で購入できます。(通販でも購入できます)

まず最初に、ひとつしっかりと理解しておいていただきたいのは、繊維JIS規格ではほとんどの項目で試験方法しか書かれていなくて、どの製品や生地にどの試験を行うかとか、試験結果の数値については全く定められていないということです。それでは、必要な試験項目や数値基準はだれがどのように定めるかというと『製品または商品を扱う各社』ということになります。

私の知る限り、JIS規格に従った試験方法や数値基準を、今から30年くらい前に業界に先がけて整えていたのはイトーヨーカドーさんだったと思います。(私が知らないだけで他にもあったのかもしれませんが。)当時は、アパレルメーカーや百貨・量販各社もまだ自社基準を整えていないところが多く、IY基準(イトーヨーカドー基準)をかなり参考にさせていただきました。そういう意味では、現在の国内繊維産業の品質基準はIY基準が元になっているように感じます。

現在では、アパレル各社が自社基準を制定していると思いますし、自社に基準が無い場合には、納品先の品質基準に従った基準で製品を作っていると思います。また、自社や納品先に基準数値がない場合には、いわゆる『公的品質基準』と言われているQTEC基準やカケン基準などが適用されていることもあると思います。

*QTEC基準はこちら

最低限必要な染色堅牢度基準とは?

前述のとおり現在では各小売りやメーカーで品質基準を定めていることが多く、各社で取り扱う製品の特性に従った試験項目や独自の基準数値を定めていることが一般的かと思います。

その中で、あえてジーンズに必要かつ最低限の品質基準をあげると、以下の【耐光堅牢度・洗濯堅牢度・摩擦堅牢度】の3項目となると思います。

■ 耐光堅牢度試験(JIS L 0842・0843)

耐光堅牢度とは長時間太陽光線にあたることによって、どれくらい退色するかという性能を評価する試験方法です。JIS規格では1級から8級までの試験を定めているそうですが、5級以上というのはカーテンやカーペット、カーシートなどのジャンルで適用される基準であり、一般アパレルであれば3級照射、または4級照射が適用されるのが一般的です。

耐光堅牢度試験とジーンズの関係を考えると、ジーンズというのはかなり過酷な条件で扱われます。ジーンズというのは他の繊維製品と比較しても生地がぶ厚くて、洗濯した後に乾きにくいので、皆さんカンカン照りの日に直接陽射しを当てて干すと思います。直接太陽光線がガンガン当たるワケですから、いわゆる『焼け』と言われる状態が発生するリスクは他の衣類と比べても高いのです。

一般的にジーンズの耐光堅牢度は3級以上(3級照射試験という意味ですが、専門的な事は検査協会さんのサイトなどでお調べください。)が一般的かと思います。まあ、だいたいのジーンズは3級以上であれば問題にはなりにくいかと思います。

※転載元 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC) ホームページより

しかし、実はこの部分にはジーンズ業界特有の大きな問題を含んでいます。これは何かというと、ジーンズを小売店の店頭で長時間にわたり陳列することによる『焼け』という問題です。私の経験上、耐光堅牢度試験の3級照射試験ではおおよそ4~5時間くらい光源に当てて結果を判定するのですが、この程度の試験では普通は全て合格になるのです。しかし、実際の店頭では、長期の製品だと数か月間店頭に陳列されている事もあり、製品が折りたたまれている場合、折り目部分の店内の照明に当たっている部分はだいたい茶色く変色します。
この現象は、実際には『焼け』ではなくて『染料が変質してイサチンが生成されている』という状態なのですが、専門的すぎるので説明を省略します。そして、一度染料が変質してしまったジーンズの焼けは、洗っても脱色しても元に戻りません。

そもそも耐光堅牢度試験では太陽光線を当てることによる変色を調べていたはずなのに、なんで店内の照明で変色してしまうのかという疑問が残ると思うのですが、実は、焼けの原因となっているのは太陽光線に含まれる紫外線なのです。そして、店内の照明には、蛍光灯が使用されていることが多く、蛍光灯には紫外線が含まれているので、太陽光線と同じような変退色を発生させてしまいます。
数年前より、照明が徐々に蛍光灯からLEDに変わりつつあるようです。LED光源は紫外線を含んでいませんので、今後、照明がLEDに変わっていく中で、ジーンズの店頭での焼けの問題は徐々に減少していくのだろうと思います。
では、ジーンズの耐光堅牢度を上げる(というよりは下げない)ためにどうすれば良いのかというと、以下の方法が有効かと思います。
*洗い加工してある場合には、しっかりとすすぐ。
一般的に、水が貴重な発展途上国地域のジーンズウォッシュ工場などでは水の使用量を抑えようとするため、すすぎが不十分なことが多く、薬剤類のわずかな残留が焼けの原因となり得ます。また、水洗い程度の加工でも洗濯水に溶けだした染料が表面にかぶる逆汚染という状況になると、焼けの原因となります。

*加工の仕上げで蛍光剤や柔軟剤を使用しない。
蛍光剤は最近ではほとんど使われていないと思いますが、以前は鮮やかな青みを出すために蛍光剤(蛍光増白剤・蛍光染料)を多用している時期がありました。蛍光剤を使用すると焼けやすくなるのは当然のことで、長期間店頭に陳列される製品には向いていません。ただし、小ロットで店頭に納品してすぐに売り切れる製品や、消費者が陰干しなど、デリケートなケアをされる製品であれば問題はないと思います。また、柔軟剤についても、使用している製品としていない製品では、していないほうが経験上は焼けにくいです。

洗濯堅ろう度試験【JIS L 0844】
文字通り、洗濯したときを想定した試験です。この試験や他のいくつかの試験には『変』『汚』という基準が使われます。『変』とは、変退色という意味で、試験する生地(製品)が洗濯によってどのくらい変色するかを数値で表します。変退色試験は家庭洗濯を想定した方法で行い、使用する洗剤は一般的には『マルセル石鹸』を使用しますが、一部の小売店の品質基準などでは実際に家庭で使用されている『アタック』などが試験用として指定されている場合があります。
変退色については、判定に『変退色用グレースケール』というものを使用します。このスケールは元の色と試験後の色をグレーの色相差と比較して判定するもので、一番変化が少ないものを5級、一番変化が大きいものを1級として、数値は9段階評価となります。1級と2級の間には1-2級という等級があり、「いちにきゅう」と読みます。
4-5級は「しごきゅう」です。

『汚』とは汚染を意味しています。汚染試験に使用する白い生地もJIS規格に定められており、綿100パーセントの生地で『カナキン3号』という規格のものを使用します。
この試験布は前述の『日本規格協会』で販売されています。試験方法は、試験する生地(製品に使用する生地)と白布(カナキン3号)を簡単に縫い合わせ、洗って白い生地にどれくらい色が移染するかを判定します。
汚染の判定に使用されるのは『汚染用グレースケール』というもので、白い生地と移染した色をグレースケールの色相差と比較して判定します。汚染の判定については、一番移染が少ない判定が5級、一番汚染の度合いが大きいものが1級となります。

※転載元 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC) ホームページより

ジーンズについては、その特性のインディゴ染料とロープ染色という染色方法のため大変色落ちしやすいですが、現在ではジーンズは色落ちしやすいので他のものと分けて洗うということが広く消費者に認知されていますので、洗濯による移染が大きな問題になるということはほとんどありません。しかし、全くないかというとそうでもなくて、まれに白いシャツとジーンズを一緒に洗濯してしまい、移染したという消費者クレームが発生することがあります。そのようなクレーム事例において移染が発生したジーンズを再度お預かりして試験してみると、基準値に対して不合格という結果になることがほとんどです。

■ 摩擦堅ろう度試験【JIS L 0849】

ジーンズと切っても切り離せない関係の試験として摩擦堅牢度があります。デニム生地というのはその染色方法から大変色落ちしやすいもので、その色落ちのしやすさを利用してストーンウォッシュ加工やビンテージ加工などの現代ジーンズのバリエーションが生まれました。また、逆説的に言えばストーンウォッシュ加工が開発されたことによって、ジーンズの色落ちしやすさという問題が解決して、日常着やファッションアイテムとして普及したと言えます。
ジーンズが色落ちしやすいということは常識的なこととして認知されており、先に述べたIY基準やQTEC基準などでも欄外の備考欄に特記事項として『デニム 汚染 乾燥3級 湿潤1-2級』などと記載されています。
まれに一部の百貨店さんなどで、デニムの摩擦堅牢度基準を『乾燥4級 湿潤2級』などと定められていることがあるようです。この点について品質管理のご担当者様にお聞きしますと「濃色デニムの色が白い高級な靴に移染して大問題になったことがある」などと、基準を独自に上げて設定している経緯をお聞きします。お立場やお気持ちはよくわかるのですが、残念ながらデニムの摩擦堅牢度はそんなに簡単に上がるものではありません。

摩擦堅牢度試験について
摩擦堅牢度試験とは、試験する布(製品の生地)と白布(カナキン3号)を擦りつけて移染の状態を判定するものです。試験は乾いた状態(乾燥)と湿った状態(湿潤)の二通りで行います。
白布を取り付ける部分はおおよそ200グラムのオモリになっていて、100往復生地を擦り合わせます。
湿潤の状態は100パーセントと規定されていますので、白布を電子秤に乗せて元の生地の倍の数値になるまで水を含ませます。
試験後に白布を乾燥させてから、移染(汚染)の状態を汚染用グレースケールと比較して試験数値を判定します。
1級が最も汚染の程度が大きいもので5級は全く色が移っていない状態です。

転載元 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC) ホームページより

ジーンズの摩擦堅牢度試験の結果は、乾燥状態に比べて湿潤状態において著しく低いです。一般的な基準は湿潤で1-2級です。1-2級がどの程度の性能なのかというと、雨が降っているときに手に持った真っ白いバッグがジーンズに擦れるとバッグが青くなるくらいの状態です。以前経験した例として、雨の日にワンウォッシュジーンズを穿いた方が白いアルカンターラのシートが付いたスーパーカーに乗り込んで、シートが青くなったというケースがあります。ジーンズと、摩擦による移染事故というのは切っても切り離せない関係と言え、おそらく永遠につきまとう問題であろうと思います。

なお、余談ではありますが、もしもジーンズの移染事故が発生して損害賠償を請求された場合、どのような対処方法があるのかを少し説明します。
まず、消費者から「雨の日にジーンズを穿いていたら真っ白いスエードのバッグに色が付いた。弁償して欲しい」などとクレームの連絡が入ったとします。そして、移染したジーンズ現品が送られてきます。
受けた側(メーカーや小売店)では、まず最初に送られてきたジーンズ現品を公的な検査機関に試験依頼し、同一製品の摩擦堅牢度を調べます。昨今では、製品化の時点で染色堅牢度データは取得されているのが当然だとは思いますが、もしも試験を行っていない場合には同一製品の未着用品の試験データも用意します。

その試験の結果、もしも消費者から預かっているジーンズと未着用品の判定数値が試験基準を満たしている場合には、原則的には『製品の瑕疵やそれによる賠償責任は無い』と判断されます。これはある機関から聞いた話なので真偽はわかりませんが、もしも消費者が移染に対する損害賠償請求をしてきた場合、裁判ではその製品の品質が一般的に認められている基準を満たしているかが判断の大きな要素となるとのことで、裁判所はQTECやカケンなどの公的な検査機関に意見を求め、QTEC基準やカケン基準を満たしている場合には製品の瑕疵はないので、一般的に認められる性能がある以上、事故は使用者に注意する責任があると判断され、損害賠償の対象とはならないと判決されるということです。公的検査機関においても、ジーンズの摩擦試験(湿潤)の基準は1-2級ですので、基準を満たしていれば損害賠償責任は無いということになります。

ここまで書くと、読んでいる皆さんは『基準さえ満たしていれば賠償責任はないのか』と安心するかもしれません。しかし、それは現実的にはかなり難しい対応となります。損害賠償請求、裁判というプロセス自体に拘束時間を多く取られますし、弁護士費用などかなり大きな負担を伴います。また激昂する消費者に対応するタフな精神力が必要です。そもそも相手はその製品を気に入って購入されたお客様であって、敵ではありませんので、どこまで戦うべきなのかも悩むところです。

ここでひとつ、少し内容が違うケースを想定してみたいと思います。
消費者から移染のクレームが入り、お預かりした製品と同一新品を公的検査機関に試験依頼します。その結果、試験数値が【湿潤1級】など、基準数値を満たしていなかったとします。この場合には、『その製品には、本来あるべき性能がなかった』ということになり、製品の欠陥が明確になっています。製品に欠陥や瑕疵がある場合には、製造物責任法【PL法】の『拡大損害』に該当しますので、メーカーには賠償責任があります。もしも製品の品質が基準に満たないことが明らかになった場合には、すぐに自社がPL保険に加入している保険会社に連絡します。そして、保険会社には『製品の品質に欠陥があった』ということを全面的に認め、事故の詳細を連絡します。
保険会社の対応は会社によって異なるようです。私の経験した例では、賠償相手にPL保険で対応することを伝え、あとは保険会社が直接賠償相手と連絡を取り、弁護士を立てて示談まで進めてくれたケースがあります。また別の保険会社では、代理交渉は自動車事故以外できないという原則(保険関係の法令?)により、対応は全てメーカー側で行い、対応にかかった費用の全てが保険で支払われたというケースもあります。
先に述べた【製品に瑕疵が無いケース】の対応と【製品に欠陥があったケース】の対応では時間的、精神的、費用的に大きな差があることは間違いありません。なお、上記の内容は決して保険を悪用する方法を説明しているわけではありませんので、くれぐれも誤解のないようにお願い致します。私の経験上では、ジーンズの色がバッグやカーシートなどに移染する場合、ほぼ100パーセント近くが製品の摩擦堅牢度が基準値を満たない不合格品であることは間違いないです。

それではジーンズの摩擦堅牢度はどうやったら向上するかということが問題ですが、おそらく製品を色落ちしないレベルまでしっかりと洗う以外の方法はありません。染料の色落ちを止める薬剤としてフィックス剤が知られていますが、インディゴ染料がロープ染色されているデニムにはほとんど効果はありません。
工場やメーカーがジーンズを納品する際に染色堅牢度データの提出を義務付けられている場合、摩擦堅牢度が不合格では納品できません。
このような場合に使用される薬剤として『摩擦堅牢度向上剤』というものがあります。これはどんな作用があるのかというと、生地の表面をコーティングするようなイメージで、摩擦堅牢度試験機で擦っても白布に移染しにくくなります。結果として試験数値は一級程度上がりますので納入先の品質基準はクリアして納品OKとなることがありますが、実際には生地の堅牢度が上がっているわけではなくて、試験機が生地表面を滑るようにして数値だけを上げるような方法であり、根本的な解決方法にはなり得ません。おそらく摩擦堅牢度向上剤を使用して加工を行った製品は、消費者が購入して数度の洗濯で本来の不合格の製品になり、後々に移染などの問題の原因となる可能性があると思います。

以上がジーンズに関係する品質試験などのお話しです。私の知識や経験が少しでも皆様のお役に立てましたら幸いです。

転載許可 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC)
https://www.qtec.or.jp/

ジーンズの強度について

現代のジーンズは洗い加工が施されているものが主流であり、ストーンウォッシュ加工や薬品を使用した脱色加工など、生地にダメージを加える加工が多くなっています。

加工により生地の強度が低下してしまうことは当然あり得るのですが、お客さんがしばらく着用して、生地が擦り切れたり裂けたりすると『このジーンズは生地が弱いのではないか』という品質クレームに発展することがあります。

洗い加工によって、何年間も穿きこんだような雰囲気にしていますので、メーカーでは【注意表示】【ワーニング】などの下札を製品に取り付け、『この製品は中古の雰囲気を出すために激しい加工をしているので強度が低いことをご了承ください』などと記載し、消費者に理解を訴えますが、残念ながらこのような注意表示は品質クレームの免責にはならず、『注意表示を付けているので製品に問題はない』などと主張してもブランドのファンを減らすだけでメリットはありません。

また、全く異なる例として、ジーンズの形をしたデニムではないパンツというものが存在します。

これは、みた目はジーンズなのですが、生地は一般衣料品に使用されているものと同等なので、ジーンズほどの強度はありません。

しかし、ときどきこれらのパンツをジーンズ並みに激しく取り扱い、生地が劣化してしまい裂けたり擦り切れたりして『このジーンズは弱いのではないか』と品質クレームになるケースがあります。

こうなると、『これはジーンズか、またはジーンズではないか』という議論になるわけで、だいたいの場合には折り合いはつきません。『この製品はジーンズの形をしていますがジーンズではありません。』と説明したところで『いや、ジーンズだと思って買いました』と反論を受けるというのがよくあるケースです。

このような問題は、どちらかというとジーンズ専業メーカーではなく一般アパレルメーカーがジーンズ型のパンツを販売すると起きやすい問題かと思います。これを読んでいるメーカーの方で、自分が担当したアイテムでこのような問題を経験した方もいらっしゃるだろうと思います。

『どこまでの範囲がジーンズか』というのは大変難しい問題で、私が大手ジーンズメーカーで品質管理を担当している頃にはQTEC(一般財団法人日本繊維製品品質技術センター)の方とジーンズの定義について話し合ったことがあります。これは品質管理のプロの方も悩ますほどの深い問題であり、正しい答えはないのかもしれません。

それでは、そもそも衣料品に求められる強度とは、どのようなものでしょうか?

衣料品の強度基準とは

染色堅牢度の項目でも説明していますが、そもそも衣料品の品質基準とは法令やJIS規格で定められているものではなく、大手小売店さんが定めた品質基準や、QTEC基準やカケン基準など公的機関が定めた品質基準が基になっています。昨今ではアパレルメーカーさんでも独自の品質基準を定めていることが多いと思います。

これらの品質基準の内容をみますと、ほぼ同じ基準数値となっており、他社と異なる独自の基準を定めているケースは稀であろうと思います。

それでは、一般的に品質基準において、生地の強度の内容はどうなっているのでしょうか?

強度試験に用いられるのは「引裂き強度」

布帛素材の生地強度を計測する方法として一般的に用いられるのは引張強度(JIS L1096A法)および引裂強度(JIS L1096D法)です。

このどちらの方法とも、生地の強度を計測する上で優れた方法ですが、引張強度(JIS L1096A法)については規定されている試験試料の大きさが経方向、緯方向ともに幅50mm 長さ300mmとなっており、経方向と緯方向の両方の試料が製品から取れないことが多く(ジーンズの場合、緯方向に300mm取れないため)製品になった状態の生地強度を計測する方法としては向いていません。

従って、製品に使用されている生地の強度を計測する方法としては、試料が63mm×100mmで経緯とも試験が可能な引裂強度試験(JIS L1096 D法)がふさわしいと言えます。

■ 引裂強度試験

【引裂強度試験に使用する試料】

【引張強度試験に使用する試料】

【引裂き強度試験】

※試験写真転載元 QTEC ホームページ (https://www.qtec.or.jp/work/20160331_306.html

■ QTEC基準より布帛ボトムスのみ抜粋

以下は、一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC) が制定しているQTEC基準からの抜粋です。QTEC基準において、生地の引裂強度は以下のように規定されています。

[ アイテム ][ 引裂強度(N以上) ][ 備考 ]
ボトムススカート、パンツ類  10N(7)・( )内は薄地に適用
・スポーツ衣料は15N以上
・スラックスは13N以上

資料転載元 OTEC基準 https://www.qtec.or.jp/public/quality.html

この基準数値をみますと、パンツ類の引裂強度基準は10N以上ということになります。また、ジーンズをスラックスと解釈すると13N以上とも判断できます。

つまり、衣料品の品質基準において、ジーンズを含むパンツの強度基準は13N以上と判断でき、アパレルメーカーや小売店がスラックスや作業着のボトムスを生産販売するときには、13N以上の強度があれば通常の使用において問題はないと考えてもよいというのが正しい解釈です。

しかし、私の経験上、生地強度における13Nという数値は決して高くありません。デニム生地で言えば薄地でも20N以上あるのが一般的であり、数値基準の13Nとはあくまでも『基準としての最低数値』と理解すべきだと思います。

つまり、この項目の最初に書いた『洗い加工を施されたジーンズ』や『ジーンズの形をした布帛のボトムス』に対しては、一般的な強度基準である13Nという数値を適用することは、消費者の【ジーンズに対する期待値】を満たすレベルではないように思います。

洗い加工やダメージ加工を施したジーンズや、デニム以外の生地で作られたジーンズの生地強度を評価する上で、一般的な品質基準に定められている強度はほとんど参考にならず、消費者の期待に応えることは難しいです。この点に留意しますと、ジーンズを取り扱うアパレルメーカーでは、自社としてジーンズに対する強度基準を定めておくことが必要になると思います。

ジーンズの強度基準

以下は私が20年くらい前に設定したジーンズの生地強度を基にしています。強度基準を設定するために、当時流通していたジーンズ数十点の試験を行いました。以下の数値は全て、現実的に市販されていたジーンズが保有していた強度に基づいています。

[ デニム14oz以上 ] [ 12oz~13oz
カラージーンズ ]

[ 10oz~11oz
カラージーンズ ]

[ 10oz未満
コーデュロイ
トラウザース ]
[ 備考 ]
引裂強度(N)45(30)30(24)20(16)15(13)( )内表記はストレッチに適用

上記の数値は公的なものではありませんが、ジーンズに対する消費者の期待値に応えるという意味では適正な数値であると考えています。私自身は上記数値を基準として20年ほどジーンズの開発や品質管理の業務を行っておりましたが、これらの強度数値は実現可能であり、生産されたジーンズは『高品質なジーンズ』という評価を頂いておりました。

一般的に『ジーンズは丈夫』という認識が強く持たれており、着用頻度や取扱方法も他の衣料品に比べて激しいことが多いようです。しかし、現代のジーンズは洗い加工による強度低下や素材の多様化などにより、消費者の期待値を満たさないジーンズになってしまうこともあり得ます。

上記の基準数値はあくまでも私独自のものであり、各社のジーンズに当てはまるものではないと思いますが、各ジーンズブランドやアパレルメーカーが各社の基準数値を設定し、消費者の期待や満足度を意識した品質管理を行っていくことが大変重要であると考えます。