戦後日本の歴史と織ネームの歴史の関係。ブランドの顔となる『ブランディングパーツ』。織りネームや革ラベルなどがブランドアイコンとなり、生活者とブランドを結びつけています。小さなパーツですが大きな使命を持っています。

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ジーンズのブランドネームについて

ジーンズに限らず、アパレル製品にはブランドネームが縫製されているのが一般的です。

ブランドネームは、大きく分けると織物として作られている『織りネーム』と、生地にインクやカーボン転写などのブリント技法で作られている『プリントネーム』に分かれると思います。

ブランドネームにおいて、特にジーンズでは織りネームが使用されていることが多いようです。ブランドネームとは、『EDWIN』や『LEE』などで使用されているベルト裏に縫製されているブランドネームの他に、後ろポケットの横に縫製されているLevi’sの『赤タブ』や、後ろポケットの縁に縫製されているLEEの『ピスネーム』なども含まれるとご理解ください。

ジーンズは他の衣料品と比較してハードに着用されることが多く、特に現在ではストーンウォッシュ加工などが多用されていることから、プリントネームと比較して耐久性の高い織りネームが多用されてきたのだろうと思います。

織りネームの生産方法について

現在では様々な技術による織りネームが開発されていることと思いますが、理解する上で大きく分けると『シャトル』『レピア』に分かれます。

【シャトル織機(細巾織り)】

シャトルとはその名のとおり糸を巻いた管をセットしたシャトルが左右に動き、決められた巾で折り上げる織機で、ジーンズに使用されるネームの多くがシャトル織機で製造されています。

写真Aのブランドネームは、巾30mmで長く織られたテープ状のネームをカットして両端を折り込んで(エンドホールド)作られています。写真Bのタブは巾20mmのネームをカットして、真ん中で二つ折りして(センターホールド)作られています。このように、一定の巾で織られたネームをカットして製造されています。

【レピア織機】

現在のレピア織機とは、コンピューター入力のデータを使用してネームなどを織る機械であり、生地サイズは、横が100cm以上の広巾で織ることができます。アパレル製品のブランドネームとして使用する場合には、指定のサイズにカットする必要があります。

■ レピアネーム

切り口のほつれを防止するために、ニクロム線の熱で溶かしながらスリットします。ヒートスリット処理をするために、ネームの材質はポリエステル100%であることが必須となります。(綿素材のブランドネームは基本的にはシャトル織機で織ります)

また、昨今は製品の安全性という点から、レピア織機で製造されたネームの端が肌に触れるとチクチクする事がある、または皮膚に擦れて怪我をする事などもあり、肌に直接触れる部分へのレピア製ネームの使用がブランドの品質規定で使用禁止とされることが多くなりました。

織りネームメーカーでは、レピア製ネームの品質向上のために様々な開発を行い、現在では高周波を使ってカットして、断面のガタガタを小さくする方法や、ネームの縁部分に極細巾の縁かがり縫いを行うことで肌に痛くないような先端技術を用いた織りネームも開発されています。

《協力》
日本ダム株式会社 https://www.nippondom.co.jp/
東京吉岡株式会社 https://www.tokyo-yoshioka.co.jp/

細幅織りのカラーについて

細巾織りとは、その名の通り『細い巾の織物』であり、製造方法は一般的な織布と変わらず経糸に緯糸を打ち込んで織り進んでいきます。

織機を使用して織る作業において、最も手間のかかる作業は、機械に経糸を通していく(整経するまたは経てると言う)作業で、経糸の交換には大変な手間がかかることから、一般的に経糸には白糸が経てられており交換はしません。

織りネームのカラーを変化させるためには、緯糸にカラーの糸を打ち込んで赤や青といったカラーを作る場合、経糸が白の糸(白経と呼びます)である以上、できあがる織りネーム表面には経糸が多くみえます(平織、朱子織の場合)のでカラーは淡い発色になります。

淡い発色を好まない場合に用いられる方法として、経糸に黒い糸を使用する方法があります。(黒経と呼びます)経糸に白を使用したものと比較すると、ベースのみえ方が暗くなります。

織りネームを製造する工場では、【白経】と【黒経】の織機の二種類を常設して、顧客から要求されるカラーに合わせて使い分けることが多いようです。

【特殊カラーの経糸:赤経 黄経】

ジーンズは他の衣料品と比較して生産ロット数量が大きくなることが多いことから、あえて白経、黒経以外のカラーを経糸として経てている場合があります。代表的なものは、Levi’sの赤タブに使用されている【赤経】や過去にEDWINヨーロッパで販売されていたインターナショナルベーシックシリーズの【黄経】などがあります。

ブランドの要望である「真っ赤な織りネーム」「真黄色の織りネーム」を具現化するために、常に赤や黄色の経糸が掛けられた織機が用意されており、年間を通じて赤や黄色の織りネームが織られています。

【高品位織り】

レピア織機も経糸は白経と黒経で、緯糸は自由に選択できます。型によって様々なベースやカラーやデザインの織りネームを作ることができます。

現在は織機を制御するコンビューターのスペックが上がったことから、従来のレピア織機で作られたものよりさらに繊細な織りネームが作れるようになりました。その代表的なものとして『高品位織り』があります。

織りネーム業界の方からお聞きした話では、初めて高品位織りのネームを見たのは1990年代前半頃、アメリカのカルバンクラインの製品に縫製されていたネームだったそうです。その織りネームは、かなり細い糸で繊細に織られており、表面に光沢感があって細かい文字も読み取れるようなクオリティだったそうで、当時の業界関係者にとって驚くようなものだったということです。

現在の国内の織りネーム工場においては、高品位織りが製造できるレピア織機が数多く導入されており、製造技術もマスターされているとお聞きしています。

【ビンデージレプリカジーンズの織りネームについて】

ビンテージ(主に50’s~60’s) をレプリカしたジーンズは大変人気があり、現在の洗い加工技術により長期間穿きこんだようにみえるリアルな中古感を再現したジーンズがたくさんのブランドより発売されています。

一般的にはストーンウォッシュ加工されたジーンズの織りネームについても、洗い加工に耐える強度や染色堅牢度が求められますが、ビンテージレプリカジーンズに使用される織りネームの中には、あえて『洗い加工によってダメージが出る』素材を使用して製造された織りネームが開発されています。洗い加工によってダメージが発生する織りネームに使用される素材とは、綿やレーヨンなどで、ストーンウォッシュ加工の研磨により擦り切れたり、機械乾燥によって縮みます。

また、ベースとなるグランド(基布) 部分だけでなく、ブランドロゴなどを擦り切れさせたい場合には文字部分に使用する糸【紋糸】の材質にレーヨンやコットンを使用することで、長期間穿きこんだジーンズのような表情を作ることも可能です。

今後のブランドネーム・服飾資材について

環境・サステイナブル対応による石油由来原料の使用を見直す動きや、SDG’sに対する社会的な意識の高まりとともに、ブランド副資材分野においても環境配慮型の開発が進められているそうです。

石油由来原料を使わず、土に埋めると分解(生分解性)する綿(オーガニックコットン含む)、キュプラ、レーヨン素材を使ったネームや、緯糸だけでなく経糸にも再生ポリエステル(シャトル織機、レピア織機)を使用した織りネームが開発され、ブランド副資材分野においても環境・サステイナブルへの対応が進んで行くと考えられます。

■ 環境・サステイナブル対応のブランド副資材

《協力》株式会社フクイ(http://fukui-tokyo.co.jp/