ジーンズの歴史とともにある『ボタン&ジッパー』。ビンテージテイストのこだわりと、世界に認められる日本の『ボタン&ジッパー』の安全性の話など。YKKスナップファスナー社の世界最高性能の取り付け機。

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ジーンズのリベット・ボタン

ジーンズがジーンズである事の、必須であって唯一とも言える条件は、『ポケットにリベットが打たれていること』と言ってもよいと思います。

他のページでも書いておりますが、ジーンズという衣料品は帆布生地のスボンに金属の鋲を打ち付けた事から誕生した事は間違いなく、Levi’sが特許を取得した日『MAY 20 1873』はジーンズのソーバーラベルの中に、デザインモチーフとして現在でも記載されております。

【以下の内容は、ボタン・リベットで世界的なシェアを持つYKKスナップファスナー株式会社の協力を受けて記載されています。製品の呼称などは同社カタログ記載名となっておりますが、現在はジーンズの標準となっていると認識しておりますので、ご理解をお願い致します。】

≪Levi’sのソーバーラベルに記載されている『MAY 20 1873』≫

リベットの誕生と進化

はじめに理解しておいて頂きたいことがあります。おそらく一般的にジーンズに打たれているリベットについて、これ(以下の写真)の事だと思っている方がたくさんいらっしゃるかもしれません。しかし、正確に言うと、皆さんが思っているのはリベットではなくて『バー』(BURR)というものなのです。

リベットは、生地の裏側から刺さっているいる鋲の事です。そして表に見えているのがバーと呼ばれているもので、辞書で意味を調べてみると【名詞(リベットの)止め座金(板金から打ち抜いた)丸い金属片】と書かれています。

ジーンズの業界では一般的に「このジーンズにはEバー使おう」とか「やっぱりビンテージはZバーだよね」などという感じで使用します。昨今、ジーンズに使用されるリベット(バー)にはとてもたくさんの種類があります。

リベットバーの種類

①Zバー

ジーンズの元となった鋲で補強したパンツに使用されていたのは、現在でいう「Zバー」であるとされているようです。Zバーは構造的に、元々穴が開いていますので手作業で打ち込みやすかったのだろうと思います。

Zバーの特徴として、リベットを貫通させた時にバー表面の穴のフチからほんの少しだけ生地の糸が出てきます。なお、最近のこだわりブランドの方たちが作るビンテージレプリカジーンズでは、フチから出る糸の分量にもこだわって、古いジーンズを精密に再現されている物もあるのだそうです。

②Eバー

現在、ジーンズのリベットバーとして最も多用されているのが「Eバー」だと思います。おそらく世界で一番有名なジーンズであろう、Levi’s 501に使用されているタイプです。

Zバーがどのような変遷でEバーに変わっていったのか正確にはよくわかっていないようですが、Zバーの形状を元にして作られたと言われているそうです。

③Aバー

「Aバー」は、主にLEEのジーンズに使用されているバーです。このタイプは、元々は穴の開いていないバーにリベット貫通させてアタマを潰しているものです。リベットとバーの色が微妙に違うので、よく見るとリベットの頭が表面で潰れているのがわかります。

④ラングラーのリベット

「ラングラージーンズのリベット」は他のリベットとは異なり、上下を逆にして打ち付けられています。他のリベットが裏からリベットを刺して表側のバーで固定しているのに対して、ラングラーのリベットはジーンズの表側からリベットを刺して裏側で固定しています。(ジーンズの裏面を表にして打ち付けています。)

≪ラングラーのリベット(表側)≫

≪ラングラーのリベット(裏側)≫

タックボタン

米国Levi’s社がリベットを打ったジーンズの原型としてヒットさせたのは、当時ウエストオーバーオールズと呼ばれていた、長ズボン型の下着の上から穿くオーバーパンツのようなものでした。このウエストオーバーオールは腰にベルトをせずに、肩からの吊りバンドで穿くタイプでした。

吊りバンドは当初、糸付けボタンで縫い付けられていましたが、針と糸で手付けするのは効率が悪かったことから、糸で縫う部分を金属で止められるようにしたボタンが開発されました。

元々糸付けボタンは四つ穴で二の字に縫われていましたので、糸で縫われているのと同じように2本の針を折り曲げてボタンを取り付ける、ツープロング(またはステープル)と言われる二本足形状のタック(鋲)を使用した金属ボタンが1895年に米ユニバーサル社により開発され、使用されるようになりました。

≪ツープロングボタン≫

元々が糸付けボタンだったことから、ボタン形状は糸が見えるのと同じような感覚で、ボタンの真ん中が開いているオープンボタン(ドーナッツボタン)でした。

その後、ツープロングタイプのタックからシングルタックへと変化し、ブルーベル社やLEEなどのようにボタン表面にブランド名やマークをデザインしたものが現れ、いわゆるオープンボタンは姿を消していきました。その後、ドーナッツボタンが復刻されるのは、日本でビンテージーンズのディティールを再現したビンテージレプリカジーンズが登場してからのこととなります。

なお、ドーナッツボタンがクローズキャップタイプに変わっていく際には、タックがキャップを突き抜けないような開発が必要となりました。現在のクローズタイプのボタンは、キャップの内部にフィラーという金属プレートが入っており、突き抜けない構造になっています。

≪オープンボタンの一本足タイプ≫

≪キャップにブランドロゴが刻印されたツープロングボタン≫

バーの材質とメッキについて

真鍮というのは銅と亜鉛の合金の事で、少し赤みがかかった金色をしています。

多くのバーやボタンなどの金属パーツは真鍮材(ブラス)で作られており、表面にメッキ塗装を施すことによりカパー(銅色)やニッケル(シルバー)ギルト(金色・ブラス材を変色防止処理)などのカラーとして使用されます。

※写真は全て「ボタン」です。

≪カラー【ブラス】≫
5円玉の色に似ています。

≪カラー【カパー】≫
10円玉の色に似ています。

≪カラー【ギルト】≫
金色に見えます。

≪カラー【ニッケル】≫
100円玉の色に似ています。

≪カラー【ブラスオキサイド】≫
使い古した10円玉の色に似ています。

また、現在ではリベットやボタンが検針に対応している(検針機に検知しない)ことは当然とされていますが、検針機が導入され始めた1995年のPL法施行当時には、まだニッケルメッキは検針対応になっておらず、その後の検針対応メッキの開発で検針が可能となりました。

現在は、ニッケルアレルギー対策メッキ(ニッケルフリー)であることも重要であり、ニッケルカラーであってもニッケル成分が含有されていないものが開発されています。

なお、カパー色(銅色)のEバーを使用する場合に、ストーンウォッシュ加工によりカパーのメッキが擦れて剥がれ、出っ張った部分の地金の真鍮が見えてきてしまうことがあります。この状態を好まない場合には、地金自体が銅でできているRCO(リアルカパー)やPCO(ピュアカパー)などを使用することで避けることができます。

経年変化による茶色くくすんだような色をオキサイド(酸化)と呼び、以前は真鍮がくすんだ色はブラスオキサイド、銅がくすんだ色はカパーオキサイドと呼んでいました。(昔の呼び方です。)

YKKスナップファスナー社のカタログカラー記号を見ますと、BRS=ブラス・BSX=ブラスオキサイド・COP=カパー COX=カパーオキサイド などと、名称記号のXがオキサイドの略として残っています。

リベット・ボタンの取付機

金属パーツであるリベットやタックボタンの取り付けは、大変重要です。

金属パーツを強い力で潰して取り付けますので、適正な強度で取り付けられる高性能の取付機を使用しないと、パーツの破損や取付ミスが発生し、最悪の事態としては、お客様が購入した後に外れてしまうこともあり得ます。

下記YKKスナップファスナー株式会社のホームページに取付機の動画がありますので、ぜひ一度ご覧ください。

※YKKスナップファスナー株式会社  >>公式HP

≪YKKスナップファスナー株式会社 取付機≫

取り付けアタッチメント

YKKスナップファスナー社では「アタッチングダイ」と呼びます。また、アパレルブランドや工場では一般的に「コマ」と呼んでいます。

リベットやボタンが外れてしまうと

取り付ける際のミスマッチや、適合していないアタッチメントを使用して取り付けた場合などには、ボタンやリベットが外れてしまうこともあり、万が一外れた場合、乳幼児が飲み込んでしまうチョーキングの可能性があることから、欧米では大変重大な問題として取り上げられます。また、金属製パーツであることから、折れたパーツの先端などによる怪我や、カーシートの損傷といった損害に発展する可能性もあり、PL法対象案件として製品の回収が必要になるケースも想定されます。

附属類のチョーキング(乳幼児の誤飲) 対象事例については欧州共同体緊急情報システム(RAPEX: Rapid Alert System for dangerous non-​food product)にて検索しますと、EU域における発生事例を調べることが可能です。

以下、事例として同サイトより転載。

【警告内容】『The small decorative elements of the trousers may be easily detached. A small child may put them in the mouth and choke on them. 』(『小さなパーツが容易に取れてしまい、子供が飲み込んで窒息する可能性がある。』)

金属パーツの国際的な使用規制および安全性について

金属パーツについては、材質、メッキ、樹脂や塗料といった材料に対して十分な安全性が求められます。金属パーツについては国際的に使用が規制されている物質が多く存在します。

  • 六価クロム及び六価クロム化合物の使用禁止
  • TBT/DBT とその有機錫化合物の使用禁止
  • ニッケル溶出 0,5µg / cm² / week未満

製品の安全性について証明する国際的な認証制度としてOEKO-TEX®STANDARD100が存在しています。特に大手アパレルやグローバルブランドにおいてOEKO-TEX®STANDARD100の認証を使用条件と規定しているケースは多く、副資材メーカーにとっては必須条件と言えます。

YKKスナップファスナー株式会社では OEKO-TEX®STANDARD100の4クラスの中で最も基準が厳しい『class I(36ヶ月未満の乳幼児が触れても安全)』の認証アイテムを確認しており、製品の安全性を証明しています。

しかし、使用する全ての原材料やメッキを分析調査する事は現実的には困難であり、副資材メーカーの管理体制において、金属や化学物質に対する管理レベルが高いことが大変重要です。

金属パーツについては、高度な分析を行うための装置としてEDX(エネルギー分散型X線分析)などの分析機器が存在します。日本を本拠地とする金属パーツのグローバル企業であるYKK株式会社およびYKKスナップファスナー株式会社では自社内にEDX分析の機能を保有し、使用が禁止されている成分や金属アレルギー対策、乳幼児衣料に使用される金属類の安全性などに対してレベルの高い管理を行っています。

今後も製品の安全性に対する責任はますます重要性になり、製品に使用するボタンやリベットのなどの金属パーツに対しては、安全性が担保されている製品を使用することが重要です。

■YKKスナップファスナー株式会社 製品案内

ジーンズのファスナー

初めてジーンズにファスナーを使用したのはLEEだと言われているようです。

ジーンズの歴史について学ぶためのバイブルのような書籍【完本 ブルー・ジーンズ 出石尚三氏著 新潮社刊】において、ジーンズにファスナーを採用したのがLEEであり、当時使用していた〝フックレス〟というファスナーが『1928年になって商標名を〝フックレス〟から〝タロン〟へと変更』(同書より引用)と書かれております。つまり、ジーンズのファスナーはタロンファスナーがオリジナルであると言ってよいようです。

また、その頃にアメリカでは、たくさんのファスナーメーカーがあったようです。私が知っているだけでもTALON・GRIPPER ZIPPER・UNIVERSAL・IDEAL・WALDESなど多数のブランドがあります。ビンテージジーンズマニアの方ならば他にもご存知のファスナーがあると思います。

その後、ファスナーメーカーは時代とともに吸収合併や廃業などが進み、高品質で調達網が整備された企業が勝ち残っていきました。現在は、世界でジーンズに使用されているファスナーの60%以上がYKKのファスナーではないかと思います。

≪TALONファスナー≫

なお、YKK株式会社はグローバル企業として知られておりますが、日本を拠点とする企業であり富山県黒部市の『黒部本社』ともいえる現YKK株式会社・黒部事業所が本拠地です。東京本社ビル(YKK80ビル)は2015年に千代田区神田に新設され、現在は幹部の皆さんが秋葉原にいらっしゃいます。しかし、重要な会議は現在も黒部事業所で行われているようです。

余談ではありますが、YKK株式会社ではブラジルにコーヒー農園を所有されております。現在、神田のYKK80ビルの1階に自社農園で収穫されたコーヒー豆を使用したコーヒーショップも営業されており、どなたでも入店して香りが素晴らしいコーヒータイムを楽しむことができます。(コーヒー豆の購入もできます。)

YKK株式会社という企業がどれくらい凄いのかは私が説明するまでもありませんが、創業者、吉田忠雄氏の言葉「善の巡環」を事業活動の基本とされている、日本企業の理想のような素晴らしい企業です。

YKK株式会社のジーンズ用ファスナー

ジーンズマイスターブログ『ジーンズを買うの巻 5』でも少しふれておりますが、そもそもジーンズに使用されていたファスナーはアメリカのTALON社製が一般的であり、当時はまだYKK株式会社ではジーンズ用ファスナーを製造しておらず、国内のジーンズメーカーは輸入ファスナーを使用していました。

当時、日本のジーンズメーカー(エドウイン社のようです。) から『TALONのようなファスナーを日本で作って欲しい』という要望を受けてYKK株式会社・黒部事業所にて開発を行ったと聞いております。

そのファスナーは現在の5YGであろうと思います。

その後、ジーンズ用ファスナーとして4YG(5YGより細め)3YG(4YGより細め)というラインナップが登場しました。なお、ブログにも書いておりますが、現在もLevi’sはYKKの5YGを使用しており、TALONファスナーのなごりを感じる無骨な印象となっています。

≪YKKファスナーの正式名称は、5YG⇒YGC5  4YGC⇒YG4  3YG⇒YGC3≫

ファスナースライダーの裏側の刻印について

YKKジーンズ用ファスナーのスライダー裏側には以下の写真のような刻印が入っています。

≪5YGファスナー≫

≪4YGファスナー≫

≪3YGファスナー≫

このように見ると、5YGと4YGには名称どおりの刻印が入っているのですが、3YGにはなぜか『45』の刻印が入っています。

なぜ3YGが45なのか以前からずっと不思議で、今回ホームページ掲載にあたりファスナー業界のマイスターの方に聞いてみたのですが、「よくわからないんだよね。たぶんTALONに45って刻印が入っているのがあるから真似したんじゃない?」との回答。うーん。確かにTALONに42とか45って刻印が入っているタイプがありますが(TALON45はYKKの4YG相当の太さ)3YGに45って刻印しちゃうのどうなのか。YKKさんにしては分かりにくいことをするもんだと以前から思っていました。

この理由は、次回YKK本社の方にお会いしたら確認してみようと思います。

≪TALON 45≫

その他のファスナー

■SCOVILL

ファスナーやボタン・リベットについて知識がある方ならば『SCOVILL』というブランドをご存じの方も多いと思います。SCOVILLブランドで一番有名なのはおそらく『グリッパーボタン』と呼ばれるウエスタンシャツなどに使用されるスナップボタンでしょう。SCOVILL社はアメリカの会社で、日本では米スコービル社との合弁で1967年にスコービル・ジャパンという会社が設立され、グリッパーボタンやジーンズ用のボタン、リベットを扱っておりました。

余談ではありますが、旧スコービル・ジャパン社の男性社員の皆さんは、ワイシャツの糸付けボタンを外し、そこにグリッパーボタンを付けて着用するという緩めのルールらしきものがあったらしく、当時の社員の方はワイシャツのボタンがパールやブラックのウエスタンシャツ的なグリッパーボタンでした。

愛社精神溢れる行為でもあり、スーツにワイシャツにウエスタンなパール調ボタンという、ちょっと変なスタイルでもありました。

その後、1999年に、スコービル・ジャパン社はYKKのグループ企業となり、社名はYKKニューマックス⇒2005年に社名変更してYKKスナップファスナー株式会社と変わり、現在も高品質なボタンやリベットを製造・販売しています。

一方、SCOVILLのブランドは2013年に国内服飾資材大手のモリトジャパン株式会社が米本国のSCOVILL社を買収し連結子会社としました。現在はモリト社の商品としてSCOVILLブランドの製品が販売されています。

ジーンズの分野では1950年代くらいにGRIPPER ZIPPERというファスナーが存在したという事で、現在は復刻されたファスナーがビンテージレプリカなどに使用されています。

復刻されたGRIPPER ZIPPERはスライダーのロック機構が『ピンロック』と呼ばれるもので、構造としては非常にシンプルな『ピンでエレメントを引っかけて止める』というタイプです。

ビンテージマニアのこだわり派の方には人気があるようです。

≪GPIPPER ZIPPER(モリトジャパン株式会社)≫

≪SCOVILL社の刻印≫

≪ビンテージ感溢れるピンロック構造≫

■WALDES

WALDESブランドのジッパー(WELDESはファスナーではなくてジッパーという呼称を使用しています。)は、アメリカで1930年代~1950年代に使用されていたそうです。

現在は、朝日ファスナー株式会社が商標権を所有してプランドとしてジーンズ用やアウター用のコダワリのジッパーが販売されています。

≪WELDESジッパー≫

以下、WELDESジッパーの特徴について同社ホームページより抜粋します。

☆1930~1950年代当時の製法と規格を忠実に再現しています。
☆ジッパーの歴史の中でも一番古い製法で、エレメント素材にアルミ、丹銅、洋白といった非鉄金属を使用しています。
☆エレメントにメッキは施していません。その為に、Zipperが革やデニムとともに経年変化を起こします。
☆スライダー、オープン金具、止め金具を当時の形状、雰囲気を復元しています。
☆テープは綿糸100%を使い、昔ながらの力織機で織っています。
☆横糸を強く打ち込み、強度のあるテープに仕上げてあります。
☆コードは別で綿糸100%を撚り合わせ、テープに丁寧に縫い付けています。

WALDESジッパーは現在もビンテージテイストと遊び心のある開発を積極的に行っています。ファスナーのテープにセルビッチ的な配色を用いたSELVEDGE ZIPPERなど、とても個性的で楽しいジッパーです。

≪SELVEDGE ZIPPER≫

*朝日ファスナー株式会社 WALDES ホームページ
http://www.waldes.co.jp/