『デニムの三大欠点』を解消したストーンウォッシュ加工とは。新品なのに中古感を表現するという不思議な世界こそジーンズの奥深さです。洗い加工技術は日進月歩。世界のトレンドは環境に配慮した洗い加工。

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ストーンウォッシュ加工の歴史

現代のジーンズの歴史はストーンウォッシュ加工と共に進化してきたと言っても過言ではありません。

元々、アメリカの頑丈な作業着だったジーンズは、ゴールドラッシュ時代のアメリカでも、アメリカ西部のカウボーイ達にも、映画『理由なき反抗』に出てくる不良少年たちにも人気がありましたが、それ以上普及するのには無理と考えられる大きな欠点が何と!三つもありました。

いわゆるジーンズの三大欠点と言われる『硬い・縮む・色落ちする』という、衣料品としてはかなり致命的な欠点でした。

これらの欠点が残っているうちはしょせん作業着の域を出ない衣類であり、ジーンズがマトモな衣料品として普及するのは無理であると考えられていました。

しかし、結果としてその後のジーンズは世界的に普及し、年齢や性別、また着用できるオケージョンも広がりました。今ではホテルニューオータニのレストランにジーンズで行っても入店を断られることはありません。(ベッラ・ヴィスタはジーンズ禁止と書かれていますが実際には大丈夫です。)

それではなぜジーンズが世界中に普及し、高級レストランでもビジネスの場でも認められるような衣料品になったか?

それは、ジーンズのストーンウォッシュ加工が発明され、世界に普及したことが理由と言われています。ジーンズの三大欠点であった『硬い・縮む・色落ちする』の全てが、ストーンウォッシュ加工によって解決されてしまったからです。

■ ストーンウォッシュ加工の発明

ジーンズのストーンウォッシュ加工がいつ、どこで誰によって発明されたのか、正確なことはわかっていません。ただし、世界を変えるようなイノベーションはだいたい世界の三か所くらいで行っているという説や、『シェルドレイクの仮説』と言われる形態共鳴という理論などもあり、ジーンズのストーンウォッシュ加工もおそらく1970年代の終わりくらいに世界の数か所でほぼ同時に発明されたのではないかと思います。

ジーンズ業界では『ジルボー氏』と『エドウイン社』がストーンウォッシュ加工を発明したと公言しているようです。また、もしかしたら他にも「私が発明した」と言う方はいらっしゃるのかもしれません。

おそらくジルボー氏とエドウイン社は共鳴理論のように、ほぼ同時にストーンウォッシュ加工の開発を成功させたのだと思います。

なお、私自身が初めてストーンウォッシュ加工のジーンズを目にしたのは1982年くらいだったと記憶しています。そのジーンズを穿いていたのは地元では目立っていた先輩の女性で、とてもオシャレな方でした。その女性が穿いていたジーンズは、後にジーンズ市場を変えるほど強い影響力を持つものでした。

この文章にそのジーンズの写真を掲載したいとネットを一生懸命に探したのですが、残念ながら見つからなかったので、恥を忍んで超下手な絵を添えさせて頂きます。そのジーンズはこんな感じでした。

この絵をみればわかる方も多いかもしれません。このジーンズは後に某国内ジーンズブランドによってコピー製品が販売され、大ヒットしたジーンズのオリジナルです。

このオリジナルは、イタリアのジーンズブランド『CLOSED』のジーンズでした。特徴的なのはジーンズの脇部分の、デニムの色が違う切り替えにみえる部分なのですが、色が違う部分の端に小さな穴がポツポツと空いていました。これはどうなっているのかと言うと、一度脇を粗く縫って、ストーンウォッシュ加工した後に糸をほどくと、縫われていた部分は色が落ちていないので濃色が残っているという大変凝った作り方でした。

また、シルエットもそれまでのジーンズとは全く違うものでした。

シルエット名は初めて聞く『ペダルプッシャー』で、腿から膝にかけてはわりとゆったりしていて裾がキュッと細くなっている、『ペダルプッシャー』イコール自転車に乗るときに裾が絡まないスタイルという意味だったと思います。

このジーンズで私が初めて見たストーンウォッシュ加工も、新しいシルエットも『CLOSED』の製品であり、それがジルボー氏(マリテ+フランソワジルボー)が企画開発したジーンズだったと知ったのはかなり後になってからでした。

私が初めてストーンウォッシュ加工のジーンズを見た頃、先にも述べましたようにほぼ同時に日本でもストーンウォッシュ加工の開発が進められていたそうです。当時開発に関わった方達から、開発当初のお話をよくお聞きしたものです。

現在では『ジーンズストーンウォッシュ専用マシン』という設備が数か国の機械メーカーより販売されていますが、開発当初は『ジーンズをストーンウォッシュするための機械』などというモノは存在せず、何らかの、他の用途に使用する機械設備を流用するしかありませんでした。日本でストーンウォッシュジーンズを開発した諸先輩方は、いろいろな機械設備を試されたそうです。そして、完成した機械が『バレル』というもので、本来はボルトやナットなどを生産する際に、鋳型の枠からはみ出したバリを削り取るために、バレルの中にボルトやナットと石を一緒に入れてガラガラと回転させ、表面を研磨するという機械だったそうです。

このバレルを使用したストーンウォッシュ加工も、開発が成功するまでにはかなりの時間がかかったようで、成功するまでには何本ものジーンズがボロボロになったと聞きます。また研磨に使用する石自体が存在しなかったために、ストーンウォッシュ加工用の石も陶器(セラミック)などを製造する所に依頼して作ったそうです。

ストーンウォッシュ加工に使用する石について

①人工石

ジーンズのストーンウォッシュ加工用に人工的に作られた石です。デニム生地を効果的に研磨しながらも、生地や糸を傷つけないような材質や形状になるよう研究された上で開発されています。

形状は、丸型、弾丸型、三角形などがあり、大きさも小粒から大きめまであります。また、ジーンズを研磨した際に石自体も削れていくため削れた後の粒子の重さなどによってジーンズの色が濁ったりしますので、求めるジーンズの色合いやアタリ感により粒子の材質や粒子を固めているバインダーなどの成分が異なる様々なタイプを使いわけます。

≪人工石≫

②軽石

日本では主に鹿児島産の軽石が使用されているようです。火山の溶岩からできた本物の軽石です。

軽石ですので軽く、ジーンズを研磨した際に粒子が水に混ざりにくく、色が濁りにくいという特徴があります。そのため、軽石でストーンウォッシュ加工したジーンズはブルーが明るめになります。ジーンズの研磨剤としてはかなり優れていますが、天然の物ですので必ずしも材質が安定しているとは言えず、一回の研磨加工で30パーセント程度が砕けて減りますので、製品を量産する場合にはバレルの中の軽石の状態を常に一定の研磨力に保っておくための技術力が必要となります。

余談ですが、1985年くらいに初めて軽石のストーンウォッシュ加工を行った際に、デニムのGジャンを持って洗い加工工場に行きました。それが初めての軽石ストーンウォッシュ加工の試験だったのですが、バレルから出てきたGジヤンは何と無残にボロボロになっておりました。デニム生地自体もOE(オープンエンド・空紡糸)だったようで穴だらけになっており、ステッチは環縫いの裏側がズタズタになっておりました。

その後、軽石で洗っても穴の開かないデニム(リング糸)生地や切れない縫製糸(フィラメント糸)の使用が進み、軽石で洗っても大丈夫なジーンズが完成して世界中でヒット商品となりました。

*軽石の産地によっては鉄分が多く含まれていることがあり、検針機に反応してしまうことがあります。感度1.2φでも検針不可となる場合もありますので十分ご注意ください。

≪軽石≫

③パーライトとボール

ジーンズの分野において、レーヨン混やテンセルなどのソフトな生地やチノパンなどをストーンウォッシュ加工する際には、前述の人工石や軽石では研磨力が強すぎてしまいダメージが発生することがあります。そのような場合に使用する研磨剤として、パーライトとボールがあります。

パーライトとは黒曜石を焼いたものだそうで、大きくて軽い粒子です。園芸用の植付資材としても販売されており、軽さと保水性を持つことから花をハンギングで植え付ける際などに使用されることが多いです。加工の際には、パーライトとゴムボールを一緒にストーンウォッシュマシンに入れます。この方法ではボールと生地の間にパーライトが挟まれて生地表面を削ることによって製品が研磨加工されます。

パーライトとボールを使用した加工では、研磨力を発揮するためにバイオ剤(後述)の併用が不可欠かと思います。

≪パーライト≫

≪ボール≫

※「研磨剤」の写真提供:全て豊和株式会社様(HP:https://www.howa-net.co.jp/