JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 2

前回のブログ『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 1』は想像を超える反響の大きさでした。読んで頂きました皆様、本当にありがとうございます! 実は前回の内容で計算が間違えている部分に真夜中に気づき、慌てて修正したりしました。(^_^;) これほど興味を持って頂けると、嬉しい反面間違えた事を書いてはいけないという責任も感じます。引き続き『なるべく正確な』(笑)内容をお届けしようと思います。なお、間違いなどがあった場合、私にとっても勉強になりますので遠慮なくコメントください。以下のコメント欄でも、連携しているSNSでも結構です。(^^)

 

さて、それでは『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 2』のスタートとなります。

このジーンズの解析を行うにあたり、どこから行こうかと考えてパッと目についたのがベルトです。なのでベルトから解析して行こうと思います。

このベルトの縫製仕様を見ると、ベルトの上のステッチと下のステッチが環縫い(かんぬい) で縫製されています。環縫い=チェーンステッチと呼ぶ方もいると思います。環縫いという縫製仕様は、いわゆる環縫いミシンを使用して縫製する方法で、ジーンズの縫製ではお尻とはバックヨークとか脇の地縫いとか、アチコチに使用されています。

 

ジーンズのベルト付けというのは他のトラウザースと全く異なる縫製仕様で作られています。ジーンズのベルトは、縫製工程としては前身頃と後ろ身頃が縫い合わされた後で、ウエストをぐるりと一周縫製します。スラックスなどでは、お尻部分で寸法出し(サイズを大きくしたり、詰めたり)できるように、ベルトごと後ろ中心で縫い合わされている物もありますが、ジーンズの場合にはお尻が縫い合わされた後でベルトが付けられていますので、後ろ中心で寸法出しする事は不可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

このベルトというのは、基本的には(カーブベルトなどで無い場合)一枚の生地をバインダーを通して二つに折り曲げて身頃に縫い付けられていきます。

 

ジーンズのベルト付けに使用されるミシンは世界には何機種が存在しています。古いものではユニオンスペシャル51800とか、最近ではPEGASUSミシンさんのTM625シリーズ、また海外では独デュルコップアドラー社などから発売されているかと思います。

(写真はBLUE ROUTEさんの51800  ホームページ https://www.blueroute.rocks/

このベルト付けミシンは、いわゆる多本針仕様になっています。例としてペガサスミシンさんのTM625B×04タイプでは、最多4本の針が取り付けられます。下のミシンの写真を見て頂くと、糸を通す皿状の部品がたくさん付いているのがお判りになるかと思います。

 

PEGASUSミシンさんのTM625シリーズ カタログ https://www.pegasus.co.jp/ja/imgs/machine/series/pdf/j_tm625_gen.pdf

 

なぜ4本も針が付けられる仕様が必要になるのかというと、一部のワーク系ジーンズなどでベルト付けを2本針で縫製するケースがある事が大きな理由かと思います。最近ではほとんど目にすることは無いですが、まれにベルト付け2本針仕様のビンテージ風ベインターパンツなどを見かける事もあるかと思います。

そして本題の、私が購入したLevi’sのブラックジーンズのベルト付けですが、実はこのベルト付けも2本針のミシンで縫製しています。ミシン針は針カブと呼ばれる部品で取り付けられているのですが、このジーンズのベルト付けミシンには2本の針の間隔が35mm(おそらく海外規格なのでインチですが)の針カブが使われており、ベルトの上と下を一度に縫製しています。

私が知る限り、最近のLevi’sのベルト付けは全て2本針環縫いミシンだと思います。

一般的にスラックスの縫製仕様では、ベルト付けはベルトと身頃を地縫いして、ベルトを返してステッチを入れます。ベルトにステッチが入る仕様では、ベルト付けの後でステッチを入れるので、絶対にジーンズのような上下環縫い2本針のベルト付けにはなりません。

ベルト付け環縫い2本針とは、とてもジーンズらしい、徹底的に生産性を追求されていた結果として出来上がった仕様になっていると言えます。

それでは、全てのジーンズがこのように2本針環縫いミシンで縫製されているのでしょうか? ぜひ皆さん、ご自分のジーンズを取り出して、じっくりと見てみてください。

 

私のLevi’sのように、2本針環縫いのジーンズもあると思いますし、中にはベルト付け(ベルトの下側)だけが環縫いでベルトの上(半周 以後ベルトコバステッチと呼びます。)は環縫いではなくて本縫いで縫製されているジーンズも多いと思います。

おそらく、日本のジーンズメーカーが作ったジーンズはベルトコバステッチは本縫いミシンで縫われている物が多いと思います。

環縫い2本針でベルト付けをすれば、工程数としては一工程で済むワケです。それではなぜ2本針では無くて、わざわざベルト付けを環縫いで縫製して、ベルトコバステッチは本縫いミシンを使っているのでしょうか?

私の知る限り、世界中のジーンズ縫製工場で使用されているベルト付けミシンは多針仕様です。日本のジーンズメーカーのジーンズも多針仕様のベルト付けミシンで縫製されていますので、針が2本取り付けられないという事はありません。

それではナゼ? ベルトコバステッチがわざわざ本縫いミシンで縫われているのでしょうか?

この理由はいくつかあるだろうと思います。私が経験した32年間にもベルト付けについて、とても色々な出来事がありました。様々な理由が複合的に考慮された結果、わざわざベルト付けとベルトコバステッチのミシンを分けるという仕様が生まれたと考えられます。

 

①ストーンウォッシュ加工で切れるから。

日本では、海外と比べてジーンズへのストーンウォッシュ加工の導入が早かったのです。そして、ストーンウォッシュ加工を行った際に、最もダメージが出やすい部分がベルトのキワでした。その後、試行錯誤により環縫いの下糸にポリエステルフィラメント糸を使用する事や、環縫いの上糸を極端に絞める事により糸切れを防止するという対策が世界中のジーンズ工場で取り入れられましたが、ストーンウォッシュ加工開発当初はまだ方法が分からなかったため、ベルトコバステッチを環縫いにすると糸が裏側(下糸側)でボロボロに切れてしまいました。そのため、ベルトコバステッチは切れにくい本縫い仕様になりました。

 

②カーブベルトというアイデアを考えたため

日本では、ストーンウォッシュ加工の開発成功と同時にスリムフィットジーンズを世界に向けてデビューさせました。

スリムフィットジーンズは極端にタイトなフィットのため型紙の特性上、ウエストの後ろ側が浮きやすく(ベルトの上が余るような状態)ベルトにカーブを付けたカーブベルトを取り入れたメーカーが多かったのです。カーブベルトとはベルトの型紙の上端と下端に最大4cm程度の差寸を付けていましたので、2本針で縫製する事は無理でした。そのため、ベルト付けとベルトステッチを分ける必要がありました。2本針ミシンは構造的に2本の針が同じストロークで動き、同じ運針ピッチとなりますので、並行する2本の縫い目しか縫製する事ができません。

 

③ベルト巾をやたらと変える

私が購入したLevi’sはベルト巾が42mmくらい(使用しているバインダーはインチ規格だとは思います)で針カブが35mmくらいです。これは私の想像にすぎませんが、このジーンズを縫製しているラインではベルトは全て42mmだろうと思います。なぜかと言うと、2本針環縫いの場合は針カブが固定なのでベルトのサイズを簡単には変えられないからです。

変えようと思えば変えられるのですが、もしも変えようとすると針カブを違うサイズに交換して、下糸側のルーパーの位置を動かして調整したりと大変な手間がかかります。なので普通は変えません。

とうことは、2本針の針巾が一緒である以上ベルトステッチの位置は決まってしまいますので、ベルトの巾も変えられません。

ところが、昨今のジーンズはファッションとして進化していますので有名無名ほとんどのデザイナーがジーンズをコレクションに入れています。そして、だいたいのデザイナーさんは感性で『ベルトはあと2mm狭く』とか『あと3mm細いほうが良いね』とかおっしゃいます。そもそも一般アパレルの分野ではベルト付けは地縫い返しステッチが標準ですので、ジーンズのベルト付けにバインダーが使用されているなどという知識はありません。

ジーンズを生産する側の立場から言わせて頂くと「エーッ、2mmくらい、変えなくても良いじゃん」とか思うワケですが、個性と感性が売り物のデザイナーさんからすれば譲れない部分なのだろうと思います。

そして、ジーンズの縫製工場では2mm違うくらいのベルト付け用のバインダーが増えていきます。

つまり、ベルト巾が変わる以上、2本針ベルト付けは無理なワケです。

 

④肌に当たると痛い

ジーンズを着用する際にベルトにTシャツなどをインしていれば問題無いのですが、夏場などにTシャツをジーンズから出して着たり、ローライズの下着を着用している女性などでは、ジーンズのベルトの裏側が直接地肌に触れます。特に最近のジーンズは、環縫いの下糸にフィラメント糸などの硬い糸を使用している事が多く、ベルト上のステッチに環縫いを使用すると裏側のボコボコした縫い目が地肌に擦れます。これは人によって、敏感肌の方とそうでもない方がいらっしゃるかと思います。ちなみに、私の肌は大変デリケートですので、先日Tシャツを出して着ていたら腰のあたりがチクチクしました。

この4点以外にも理由はあるかと思いますが、私の経験では以上の理由が大きいだろうと思います。これらをひっくるめて説明すると要するに『品質のため』という事になるかと思います。

良い、悪いというレベルの話では無いのですが、作業着として誕生したジーンズがファッションとなり、シルエットや洗い加工の多様化により、作業着としてのジーンズとファッションとしてのジーンズは一見そっくりなようで異なる進化をしてきたという事だろうと思います。

 

もう20年以上前ですが、国際的なミシンの展示会で海外のミシン改造メーカーと話した事があります。そのメーカーではベルト付け2本針環縫いのミシンに自社開発のアタッチメントを取り付けており、精度はかなり高く素晴らしい開発だと思いました。熱心にそのマシンを進めてくるそのメーカーのスタッフに『日本ではベルト付けは環縫いでベルトステッチは本縫いでやっている』と言ったら『ハア? アホチャウカ? (関西弁では無かったですが。笑)』と言われました。

たかがジーンズ、されどジーンズ。いろいろなジーンズがあって、様々な考え方があって、そして世界中のジーンズを生産する方たちが切磋琢磨するからジーンズ作りは楽しいんだと思います。(^^)

うーん。ベルト付けだけでブログ一回終了してしまいました。『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 2』おしまいです。

まあ、趣味でやっているのでどんだけ長くなっても良いんですが。(笑)おヒマな方だけお付き合いくださいな。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。乱筆乱文、誤字脱字などお許しください。(^^ゞ

JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 3』に続きます。