2009年のJC(ジャパンクリエーション)

2009年のJC(ジャパンクリエーション)において、小林道和氏が講演を行った際の原稿です。この回のJCでは、貝原良治カイハラ㈱会長(JC運営委員長)よりエコテック・ジャパン近藤会長にフォーラムのコーディネートを依頼し、近藤会長より『アパレル業界のCSR』を主題とした講演が小林氏に依頼されたと記憶しています。

【ジャパンジーンズを取り巻く高い競争力とCSR調達】

日本の素材・副資材・洗い加工・縫製設備

1) 素材に関して
デニムは世界の中でも日本で作られたものが最も価値があると言われています。特に混綿の技術は世界で一番研究されており、世界中からデニムに合った原綿を調達し、その白度・繊維長・繊維の太さ等の管理が徹底されており、高い評価を得ています。
また染色においてもただ単に染めるだけではなく、中古洗いに向いた染色方法や色落ちしにくい染色方法等が研究されています。
混綿の技術が高いので、世界の同じ太さの糸と比較してみると日本の物がすぐれていることがわかります。

最近は綿100%のみでなく、ストレッチ素材はもちろんのこと他の合繊素材との組み合わせにおいても高い技術が養われており新しいデニムとして評価されています。

2) 副資材に関して
ボタン・ファスナー等の金属については、
『世界で最も厳しいUSAの重金属規制(CPSIA)をクリアした製品の提供及びその重金属のトレサビリティーを確立しています。
まず重金属ですが、検知機械、EDX器を工場に導入。特に鉛は2010年より90ppm以下を規定しており全ての製品をロット毎にチェックして出荷する事として現在進行しています。またその製品の材料、プレス、表面加工、組立、検査、包装、出荷等全ての工程のロット管理をしてトレサビリティシステムを実行しています。』

織ネームには、日本の洋服文化と同時に進化してきた100年の歴史があります。
元来日本の洋服は老舗の百貨店で仕立てるなど高級なイメージが強く、織ネームも高い技術が要求されました。
元々は西陣の「紋機」から始まっており、その後は細幅のリボンを製造しながら織ネームに変化してきました。昭和になってから軍需工場で陸海軍の階章やエンブレムを作ることで発達してきました。(「紋織」は、ドビー織やジャガード織などいろんな組織を組み合わせて、シンプルな柄から複雑な模様まで自由に織ることが出来ます。)

目に見えて流行り出したのは、40~50年前のVANやJUNが生まれた頃アパレルのネーム産業として発達しました。その当時、発祥地と言われる福井県丸岡市に200社程の工場があり、町中が活況を呈していました。
日本・イタリアには昔から織ネーム文化があり、それは糸の開発へと繋がりました。

地場産業からサプライチェーンへの自動形成へと同じ価値を持った人達が集まり、品質保証へと繋がりました。
日本製ジーンズは中古加工された物が評価されていますが、織ネームやその他のパーツも同様に侘寂<わびさび>とも言える中古表現が重要な意味をなし、全体として商品の魅力を高めています。

3) 洗い加工に関して
日本が初めてジーンズを洗った。ストーンウォッシュを開発したのも日本です。
その為、洗い加工の技術力は世界でも認知されています。
今は中古のみでなく、洗い加工がデザインのひとつとして自己の位置を築き上げました。
中でも日本が持っている固有の文化(=古いものに価値を見出すこと)は、世界中から見てとても魅力的で高い評価を受けています。

4) 縫製の設備に関して
縫製における2つの顔
① 50年前のミシンを今もメンテナンス出来る技術者とその中から生まれる商品の素晴らしさ
② 最新のミシンを使い、おそらく日本のオペレーターにしか縫えないミシンの設定で従来の
デニム縫製の枠を越えた技術

世界中のミシンの70%以上が日本のミシンメーカーです。
これだけの占有率があるのは、日本のミシンメーカーの開発力が生かされているからと言えます。

CSR調達について
 今、日本で考えなければいけないこと
今色々な形で「安く売れる」という事が、徹底したコスト管理とか経営努力したと誉め称えられており、それが出来ない会社は問題であるという話があります。
しかし、価値を上げるにはいろいろな努力が必要であり、手段を選ばない手っ取り早い方法に頼っているだけの行き過ぎたコスト削減は、劣悪な労働条件で働かざるを得ない人が増えているという事に気付いていないと言えます。(この事に気付かなければなりません)
自分さえ良ければいいというのではなく、安い商品はどこからどのように来るものか考えなければなりません。
まともなものは「損」と見なされているのは問題です。自分さえ勝ち残ればいいという考え方は危険です。
「ヒトの値段」「ヒトの価値」=「モノの値段」

誰が作っているのか?
物作りの基本は「現地現物」(=現場に足を運んで、自分の目で見て、判断する)が基本であり、単なるコスト要求から生まれるものであってはいけないのです。
特に今の綿花の相場に目を向けると、原綿価格と製品価格のバランスが悪いことを考えてください。
本来我々がしなければいけないことは、綿を作っている人が綿を作ることによって生じる健康面の大きな問題を解決することです。
大きな問題とは、綿花産業は農業全体の3%しかないのに農薬10%・殺虫剤20%の使用量を占めていることです。そのためにオーガニック・コットン化(減農薬化)を含め、綿花栽培のサスティナビリティを支えていく方法を考えていく必要があります。
(健康問題・土地・地下水の汚染)

消費者に話を聞いても、「今特に欲しいものはない」という考えを持った人々が多く、『何を新しく提案出来るか』、また品質の良さはもう当たり前になっているので、『どのように作られているか』、つまり物作りの履歴も説明し、≪安心出来るまともな商品作り≫が重要となると考えます。

CSRにおいても、物作りはパフォーマンスではないので、相手に要求するだけでなく、自分達で行なうことが重要です。物作りの履歴・安全安心が何故重要かをみんなが理解しなければなりません。
今「中抜き」という言葉がよく使われていますが、機能していない物を外してコスト削減する事が大切なのであり、本来しなければならないことをしていない(=手抜き)にならないよう気を付けなければなりません。

今後は、「日本発のファッション提案」(=日本は価格ではなく、価値で勝負することが重要)
日本は物作りにコストが掛かります。価格競争ではなく、価値競争で勝っていかなくてはなりません。また、日本のデニムビジネスは、クールジャパンと呼ばれるポップカルチャーや、和食やアートなどのハイカルチャーにも共通する、他国と違うアプローチが今後も必要となります。

『CCI(国際綿花評議会)デニムグローバルイベント2007上海』質問に対する回答

質問に対する回答

①御社の観点から、デニムビジネスにおける主要トレンドは何か?

回答
現在、主要トレンドの転換期であると思われます。
過去3年間にわたって主要トレンドは、プレミアジーンズの影響からステッチ、刺繍、フラップなどの変化が中心となっていました。シルエットに関しては、美脚、足長といった言葉に代表される、細身のシルエットがレディースでは主力となり、反面メンズではレギュラーストレートを中心に、ハードな加工変化が求められていました。

現在は、バギー、サロペットがレディースで、60‘sを中心としたビンテージがメンズでの新しい傾向となり、今後広がりを見せると考えています。つまり、太身のシルエットが注目されているということです。

また、素材に関しては、全体として、引き続き光沢感がテーマであり、新しいテクニックが見られはじめています。その反面、粗野な味わいを持つドライタッチな素材に対する要求も多くなってきています。

②これらのトレンドや課題は如何に変化しているか、シーズン或いは1年単位でどのような変化が予測されるか

回答
デニムビジネスにおけるトレンドサイクルは日本においては3年単位で変化しており、他のファッションビジネスのサイクルに比べれば長いと感じています。
しかし、ファッションは多様化しており、ターゲットを明確にした、よりカスタマイズされた提案が不可欠となってきています。
気候的には日本も亜熱帯化しており、春~秋の期間が長くなる中で、より涼感を表現できる素材開発が重要となります。

③これらのトレンドや課題は、マーケットの地理的要因に関係するか、日本独特のものか、或いはグローバルなものか

回答
先ほどお話ししたように、日本のマーケットは独特の特色を持っており、その中身はもちろん地理的な要因も関係しますが、ひとつは長い伝統から生まれた文化的要因、もうひとつは第2次世界大戦敗戦後の、世界でも類を見ない急激な生活環境の変化から生まれた、新しいものに対しての吸収力があげられると思います。
ふたつの、ある意味アンバランスな状況から生まれてくるファッションは、とても魅力的ではあると言えます。
グローバルという言葉も、どれだけの国の単位なのか、金額なのか、数量なのか、自分の国を中心としてとらえられたものなのかなど、視点により異なると思われ一概には言えません。
また、ファッショントレンドとビジネスは、必ずしも一致しないことが多いことも事実です。

『CCI(国際綿花評議会)デニムグローバルイベント2007上海』

講演タイトル『日本のジーンズマーケットの現状と特徴』

*本講演は小林氏のスピーチが、ヘッドフォンを通じて英語と中国語に同時通訳されて行われました。

日本のジーンズマーケットは、他の国ではあまり見られない大きな特徴を持ちます。ひとつは、ジーンズカジュアルショップと呼ばれる、多ブランドのジーンズを揃え、商品構成されたショップが、大手チェーン店5社でおよそ1000もの店舗をもつことです。また、その他ジーンズ専門店も全国でおよそ300店舗が存在します。
これらのジーンズカジュアルショップはここ数年来出店と拡大を継続してきました。ただし、現在が拡大の過渡期であり、今後はより消費者を意識した店舗作りが必要となってくると思われます。

また、これらのジーンズカジュアルショップ以外にも、GMS店舗内のジーンズショップがおよそ300店舗存在し、ジーンズを主力として取り扱うSPAの店舗も800店舗以上存在しています。
それらのマーケットプライスは$40~$80が中心です。

このようにNBと呼ばれるジーンズを主力で取り扱うショップが大変多く存在している状況は、世界の中では大変特異なマーケットであると思います。

アメリカ・ヨーロッパとの大きな違いの例として挙げると、大変残念なことながら、〇〇〇は日本に進出して大きな赤字を続けています。また〇〇〇に至っては一昨年〇〇〇に売却を行うなど、欧米的なロープライスマーケットは成功していないという現状です。

日本のデニム・ジーンズ産業の大きな特徴を説明しますと・・今日も大手デニムメーカーに関係する方がお見えになっていますが・・・ 紡績メーカーが大変積極的に、デニム生地の生産に対して設備投資を行っており、紡績工場でも過去からの技術的な蓄積を持っていますので、新しいデニム生地の開発に積極的なチャレンジを継続していることです。そして日本で開発・生産されたデニム生地は国際的にも高い評価を得ています。

また縫製の分野に関しては、皆様もご存知のとおり、JUKI・BROTHER・PEGASUS といった、世界の縫製マシンのリーダーシップを取っている企業が存在し、最先端の縫製マシンの供給を受けることが可能です。

さらに洗い加工の分野においては、私どもが世界に発信したストーンウォッシュ加工を基本として、常に世界に向けて新しいウォッシュ加工の提案を行い続けています。

その他の副資材としても、ファスナー、ボタンやリベット、ラベルなど、全ての業種が日本で開発され、生産を行い続けていることか、我々にとっても大きな力となっていることは否めません。

ジーンズの文化は、日本ではまだ50年あまりの歴史しかありません。ただし、先ほどよりお話ししているジーンズの生産に関わるほとんど全ての業種において、日本の伝統的な技術や日本人が古くから持つ感性が、ジーンズの生産の随所に残っているということが、大きな強みであると言えます。

それは、伝統的な着物の文化を始め、器(うつわ)や塗り物などの技法、絵画の技法、あるいは四季を感じるような色彩への感覚であったり・・これらの数値化することが難しい感性の部分は、現在でも様々なところで応用されています。

もう一つの特徴は、新しい機械の開発であり、精細さが要求される微妙なメンテナンスレベルの高さであり、それらの機械を使いこなすオペレーターのレベルの高さなどが挙げられます。

日本では、ジーンズの生産にたずさわるオペレーターは、生産者でありながら消費者でもあります。
ジーンズ生産にたずさわる縫製工場や洗い加工のオペレーターが、100ドルから200ドルのジーンズの消費者でもあり、高いレベルでの『消費者の感覚』を持った生産者であるということが、日本のジーンズ産業の大きな特徴と言えます。

もうひとつ、物づくりはパフォーマンスではありません。
いくら事務所やショールームが立派でも、現場の作業環境が悪ければ意味がありません。
一部の工場では、海外バイヤー向けの応接室はカフェのようで、トイレもきれいにされていますが、ワーカー用の休憩室やトイレは大変劣悪な環境であるというところもあるようです。
私は、現場がクリエートできていない工場では、付加価値のある商品は生まれてこないと考えています。

よく、人口一人あたりの本数でデニムの消費の少なさ(アメリカ 2.5本 ヨーロッパ 1.5本 日本 0.6本)
について話しをされる方も多くみられますが、日本は人口一人あたりの金額においてはかなり上位に位置すると思われ、そういった意味では成熟したマーケットであると言えます。

 

 

 

 

 

未来と課題

日本は物作りにコストが掛かります。価格競争ではなく、価値競争で勝っていかなくてはなりません。
日本のデニムビジネスは「神戸ビーフを目指す」と言うと大げさですが、醤油ベースの味付けをした他国と違うアプローチが今後も必要となります。

他社や他国で売れているものをアレンジするということは、つい陥りがちではありますが、それはコピー商品と捉えられ評価を得ることが出来ません。自分の型としなければ、オリジナルとは言えません。
若い人が勉強のためにトレースすることは重要ですが、それに自社のブランドを付けたときからコピー商品となり、ブランドの価値を落としてしまします。企業にとってブランドは命です。
全体の傾向、などというのは、デザイナーとしてはまだ二流であるということです。

そのためにもクリエイティブな能力を持った人材を教育することが今後の大きな課題となります。幸い日本の学生のデザイン感性は高く、各国の学生によるファッションショーにおいても高い評価を得ています。これはアジア全体としても言えることです。

しかし社会に出てから実践で勉強する場が少なくなっており、ファッション雑誌やメディアからの情報の受け売りと、勝手な勘違いからアーティスト気分になり、セミプロからプロになる過程において脱落する人間が多いことも事実です。
個性であるとかスタイルということは、自分で話しをすることではなく、相手に感じさせるものだと思います。

その背景には高校や専門学校や大学等の学生時代に、世界で最もファッションにお金を使える国であり(その理由は学生アルバイトでも月額5万円~8万円の収入が一般であり、その金額のうちかなりのウエイトがファッションに注ぎ込まれているからです)、その金額は40代の社会人より多いと言われています。このことがストリートファッションにおいて、日本が高い評価を受けている理由でもあります。

つまりスタートは他国に先行していますが、社会人になってからの成長が遅れていることが問題であると言えます。特に美的感受性が欠けてきます。

また消費者に話を聞いても、「今特に欲しいものはない」という考えを持った人々が多く、『何を新しく提案出来るか』、また品質の良さはもう当たり前になっているので、『どのように作られているか』、つまり物作りの履歴も説明し、≪安心出来るまともな商品作り これは真面目なだけでなく、社会的に、また人間としてルール違反をしない≫が重要となると考えます。

行き過ぎた例ですが、今日本では作り手の顔が見えないことが問題であるととらえ、生産者の写真を貼った野菜を店頭に並べて、「だから安心です」という売り方がよく見受けられますが、その生産者が安心な人かどうかは我々にはわかるはずもなく、もしかしたら地元では評判の悪い人かも知れない・・という笑い話もあります。

デニムは世界中で愛用されており、それぞれの国それぞれのデザイナーが新しい提案を行なっていますが、自分の国だけで通用するブランドでは今後の成長は難しく、他国においても通用するブランドであることが成長する上で不可欠であると考えます。
そこには物まねではなくオリジナリティが必要であり、考えるデザイナー・それを生産に結び付けられる人・それを作り出す生産工場・人を育てられる企業でなければならないと思います。
《たかがデニム、されどデニム》と日本では表現しますが、考え方により今後も新しい提案はどんどん生まれてくると考えています。

また最後になりますが、我々がジーンズを作り出す上で綿花は非常に大きなポイントになります。個人的ではありますが、自分が見てきた中ではアメリカにはデニムに適した綿花が多く、サンフォーキンにいたっては最もデニムに適していると感じています。安定した品質が保たれているということは、物作りの歴史と伝統から生まれるものであり、アメリカの農業の奥深さを見ることが出来るということを付け加えて話を終わらせて頂きます。

ありがとうございました。

イベント終了後のパーティーにて
小林さん 写真向かって一番左
貝原会長 写真向かって右から4番目
小泉   写真向かって左から2番目

WORDS of JEANS GODについて

日本のジーンズ業界において、過去にたくさんの偉人・奇人変人がおりました。(笑)
業界の人間ならば知らない人はいないというような方々ですが、その中でもおそらく最もたくさんの業界人から慕われた方であり、名実ともに日本のジーンズ業界を代表する存在として、小林道和氏という方がおりました。
現在ジーンズ業界で世界的に活躍する方たちにも『小林の弟子』を自称する方が何人もいらっしゃるようです。
残念ながら、日々の激務をこなす中で大変なストレスをため込み、病魔に襲われてしまい、病院に行くのが遅れて初めて通院した時には病気はすでにかなり進行していました。2014年12月17日、残念ながら帰らぬ人となってしまいましたが、今でも東京の下町谷中のお墓に眠る小林氏のところに献花に行く業界人は多いようです。
『小林さんほど綿花から製品の洗いまで機械に精通した人は世界にいません。2007年にはCCI国際綿花評議会とコットンインクの主催で「デニムグローバル・イベント」が上海で開かれ、「日本のジーンズマーケットの現状と特徴」をテーマに講演されました。世界のデニムミル、ジーンズメーカーが多数参加し、「日本に小林あり」とメードイン・ジャパンのジーンズを広く世界にアピールし、大変心強く思い、拍手を送ったのが数年前のような気がします。』
これはカイハラ株式会社の貝原良治会長が、2015年2月5日に行われた『お別れの会』で述べられた弔辞の中の言葉です。

私は幸運なことに、小林氏の部下として30年近く働かせて頂きました。
小林氏には、世界中のジーンズ関係機関やアパレル業界団体から講演のオファーが大変多く、本来は決して目立ちたがり屋な性格では無いのですが、『日本のジーンズ業界のためになるならば』と講演を引き受ける機会が多かったです。今、私の手元には、つい最近、本当に偶然に見つかった小林氏の講演の原稿やスライドの資料が少し残っています。

小林氏の弟子を自称自任するジーンズ業界の方も、小林氏の事を知らなかった方も、実際に講演を聞いたことのある方は少ないと思います。私が『WORDS of JEANS GOD』のコーナーに掲載する事により、小林氏の考えていた事を皆さんに知って頂けたら幸いです。
なお、掲載する講演資料には小売店さんや企業の固有名詞が多々出てきますので、該当部分は〇〇〇と修正しています。また、小林氏の講演当時の発言をそのまま記載したいと思いますので、講演当時と現在の状況が大きく様変わりしている内容もあります。
あくまでも小林氏の発言を『なるべく原文のまま』記載する事が趣旨ですので、ご理解をお願い致します。
講演内容は順次更新追加していきます。まず第一弾として、本稿前段で貝原会長が述べられていた『CCI国際綿花評議会 デニムグローバル・イベント2007上海』の原稿をアップします。

ジーンズの糸切れについて

つい最近の事です。仕事仲間よりデニムアイテムの不良品について相談が入りました。写真のやつです。あー、これです。おそらくジーンズ業界に30年以上かかわって、すでに3回目くらいのやつです。

デニムアイテムを企画生産する方たちにとって、必ず通過するであうと思われるリーバイスGジャン1stや2ndモデルのコピー。(レプリカとも言う) たぶんデニムGジャンの中では一番人気の高いアイテムです。ディティールの特徴はフロント切り替え部分のプリーツ状に折りたたまれている部分です。この部分が何でこんなふうになっているのかは良く知りません。動きやすいようにアクションプリーツになっているのならば、四角く縫って止めちゃわないほうが良い気がするのですが・・

それはさておき、この仕様でやたらと頻発するのが、このプリーツを止める四角い縫製部分の洗い加工による糸切れです。本当に、すでに3回目くらいの経験です。まあ30年も同じような事を繰り返しているジーンズ業界では珍しい話ではありませんが。

糸が切れるほどの強い洗い加工が施されているのですから補修もミシンでダダッと縫うだけで済むと思いますし、それほど難しい補修ではありません。

しかし、なんでしょっちゅう発生するのか、説明しておきたいと思います。

まず、ここはストーンウォッシュ加工すると大変切れやすいところなんです。このプリーツの止め部分に限らず、ジーンズというのは厚みの段差部分で糸切れが発生しやすいのです。この理由には大きくふたつあります。ひとつは『段差部分にストーンウォッシュの石が特に強く当たる』という事。ストーンウォッシュ加工したジーンズをじっくりと見てみてください。例えば脇のヨークの段差あたりとかお尻のヨーク合わせ部分などを見ると生地がすり減るほどアタっていると思います。この理由を突き詰めて考えた事はないのですが、間違いない事実です。

もうひとつの理由は『段差部分でミシンピッチが大きくなったり糸調子が緩んだりする』ためです。これは普通の本縫いミシンを使用している以上避けにくい現象です。厚みから押さえ金が降りる部分では段差部分の一針が大きくなってしまうので、糸が遊んでしまい切れやすくなります。おそらく最新の針送り機構が付いたミシンや電子パターンミシンなどを使用すれば糸の緩みは発生しないですが、なかなかそのような最新のミシンを使用しているジーンズ工場は無いと思います。

それではこの不良をどのように防止するのか。同じことを取り返さないためにも、ここが大切な部分です。

■対策① 切れない糸を使用する。

昨今のデニムアイテムは縫製箇所によってステッチの色を変えたりするのは普通の事なので、少し色が変わってもプリーツの止め部分の糸だけを切れない糸にておきます。もしもこのプログをお読みになっている貴方が縫製工場やOEM生産の会社の方だった場合、ここの糸を変えてもアパレルやブランドの方はまず気づきませんのでご安心ください。(笑)

《おススメの糸》
① フィラメント糸 ②TTコア ③コアヤーン

①フィラメント糸
洗い加工しても簡単には切れない糸のナンバーワンは、①のフィラメント糸です。
ジーンズ専用のフィラメント糸としてKPF(キンバポリエステルフィラメント)が代表的です。そもそもフィラメント糸とはなんなのか?なのですが、我々が習った頃には「ところてんのようなもの」と教わりました。ところてんとは、材料は良く知りませんが(食べるのは大好きですが。)たぶん海藻みたいのが原料で、作ったときには四角くて、木の箱に入れて先っぽに板のついている棒でエイッと押すと箱の先端から細い紐みたいな感じで出てくるやつです。たぶんこの説明では全然分からないと思いますし現在の若者たちはほとんどところてんを突く(ところてんは〝つく〟というらしい)なんて見た事ない方がほとんどではないかと思いますが、要するにドロドロに溶かしたポリエステルが細くて長くなっているものです。うーん、この説明ではさらに分からなくなっているかもしれませんので、以下のアズマ㈱さんの説明資料をご参照ください。

           

②TTコア
〝コア〟とは中心みたいな意味だと思いますが、このTTコアとは中心には前述①のフィラメント糸が入っています。フィラメント糸の番手は、TTコア20番手に対して30番手より少し細いくらいです。(およそ600dtex)
名称の先に付いているTTはテトロン×テトロン(つまりポリエステル)という意味なので、コアがポリエステルフィラメントでカバーリングしているのがポリエステル短繊維という事です。
昨今のストーンウォッシュ加工においては、ストーンウォッシュの研磨時間を短くして加工感を強く出すためにバイオ(酵素)を用いるのが主流となっていますが、デニムの加工に効果の高いバイオというのはセルロース系繊維を脆化させる効果がありますので、この後の③にあげるコアヤーンを使用するとカバーリングの綿も脆化します。つまり、バイオストーンウォッシュを行う際には、コアヤーンよりもTTコアのほうが強度が落ちないという事になります。
TTコア糸は、コアにポリエステルフィラメントが入っている上にカバーリングはポリエステル短繊維なのでコッコンライクな毛羽立ち感があり、万能的な糸と言えます。特にフィラメント糸を使用した際の糸の光沢感を嫌う方には良い選択だと思うのですが、このTTコアの最大の弱点はあまり使用されていないのでカラーバリエーションが少ない事かと思います。このあたりはジーンズ用ステッチ糸に大変強く世界中のジーンズメーカーで採用されているキンバ(アズマ㈱さん)にバリエーションの増加を期待したいところです。

③コアヤーン
3番目にコアヤーンをお勧めします。おそらく現実的には、ジーンズの生産に強いブランドやアパレルメーカーではコアヤーンを使用しているケースが多く、それほど専門的でないところではスパン糸を使用していると思われます。
コアヤーンとは、コア(中心)部分にポリエルテルフィラメント糸が入っていて、コアの周りを綿の繊維でカバーリングしている糸です。表面上は綿糸ですので自然な毛羽立ち感があり、ブリーチ加工を行ってもデニム素材の色落ちに合わせた感じで自然な色落ち感があります。私はコアヤーンの開発当初から関わってきましたが、現代のジーンズに欠かせないストーンウォッシュ加工と激しい加工にも耐えるジーンズ専用の糸であるコアヤーンの開発とは切っても切れない関係にあると思います。
縫製仕様に少しお詳しい方なら理解できるかと思いますが、ジーンズの縫製に多用されている環縫い(チェーンステッチ)は、上糸が一針でも切れてしまうと目飛びと同じ状態になり裏側の下糸がポロポロとほつれてしまいます。ですから洗い加工でステッチ糸が切れないことは大変重要なのです。
ミシン糸というのは30番手であれば30番手単糸の三本縒りなどの構造で、、50番手の単糸がコアヤーンだったりスパン糸だったりします。ジーンズをストーンウォッシュ加工する場合に、もしも段差などでステッチ糸に強いダメージがかかると糸が擦り切れてしまいます。この場合、3本中2本が切れたスパン糸とコアヤーンでは強度は大きく異なり、1本しか残っていないスパン糸は簡単に切れてしまい、環縫いが10cmもほつれた不良品になったり、消費者が購入後に切れて商品クレームに発展したりします。一方、コアヤーンであれば、単糸一本のコアであるポリエステルフィラメントがつながっている限り環縫いがほつれる事はありません。

そもそも糸の価格がコアヤーンはスパン糸の3倍ですので、製品原価を考えるとなかなか使いづらいという事はあると思いますが、洗い加工を行って大量の不良品が発生して製品納期を間に合わせるために補修や運賃に多額の費用がかかったり、せっかくそのブランドのジーンズを気に入って購入してくださったお客さんがクレーマーになって対応に苦慮したりするよりも、俯瞰して見ればメリットは大きいのではないかと思います。

このブログの内容が、ジーンズ生産にかかわる方にとって少しでも役に立てば嬉しいです。

ハワイでの出来事

コロナ禍の2021年1月現在、国内旅行も海外旅行もできません。当然、大好きなハワイにもしばらくは行けないと思います。最後にハワイに行ったのは、すでに5年くらい前の事になります。一刻も早く新型コロナウイルスに効果のあるワクチンが開発されて、世界が元通りとまではいかなくても普通に生活できる程度になって、またハワイに行ける日が来るのが本当に楽しみです。

前回ハワイに行ったときに、散歩というかハイキングというか、歩いてダイヤモンドヘッドを一周してみようと思い立ち、およそ2時間かけてブラブラと歩きました。カピオラニ公園から右手にハワイの美しい海を見て反時計回りに坂を登って行きました。ダイヤモンドヘッドの登山道入口あたりまで歩いてKCCファーマーズマーケットで有名な学校のほうにだんだん坂を下って行くと、道路の歩道の修復らしく、かなり大規模に工事をやっていました。(ここからが本題です。)
別に海外での工事の風景を初めて見たというワケでもないのですが、工事をしている人たち(日本でいう土建業の方たち)のスタイルを改めて見てみると、全員がジーンズを穿いて作業をしているのでした。それまで、自分でも講演などで「ジーンズはアメリカの作業着だった」などと発言していたワリにピンと来ていなかったというか、改めてじっくり見てみると本当にジーンズって作業着だったんだなーと妙に納得してしまいました。

作業をするときにジーンズって動きづらそうですよね。生地も厚いし。しかもハワイは暑いので、デニムは向いていないと思ってしまいますが、彼らの穿いているジーンズはみんなダブダブのオーバーサイズなんです。だから、動きやすいしそれほど暑くないんでしょうね。感覚的には日本でのニッカボッカみたいな感じです。日本には独自の『作業着文化』みたいなのがあって、寅壱さんとかワークマンさんのようなカッコよい作業着がたくさん販売されていますが、たぶん海外ではそういった作業着というのは存在していないのだろうと思います。

引き締まった身体のワーカー達がダブダブのオーバーサイズのジーンズを履くと、当然股上が深いのでウエスト位置までずり下がって必然的にいわゆる『腰履き』になるワケです。この履きこなし方は、ほとんどスケーターかプレイクダンスやヒップホップのキッズみたいな感じなのですが、元々ラッパーのギャングスタ達のファッションというのは案外このあたりのワーカーの作業着などの着こなしにルーツがあるのかもな、などと一人で勝手に納得していたのでした。

もう今から30年くらい前の統計となりますが、当時、日本ジーンズ協議会でジーンズの国内年間消費本数というのを集計していた時期がありました。確か当時の数字で国内のジーンズ消費本数は7000万本くらいだったと記憶しています。この数字は日本の人口から考えると、年間の消費本数は一人当たり0.5~0.6本くらいとの事でした。一方、ジーンズ先進国のアメリカは当時で年間2本くらいと言われておりました。つまりアメリカのジーンズ消費量は日本の4倍くらいと考えられていて、日本のジーンズマーケットはまだまだ伸びしろがあると考えている方が多かったです。
それから30年。ジーンズブランドや販売チャネルは多様化し、すでに日本ジーンズ協議会で集計できる状況ではなくなっていますが、果たして日本のジーンズ消費量は増えているのか、それとも減っているのか。
現在では誰にも正確な解答は分からないのだと思いますが、少なくともアメリカでジーンズの消費量が多いのは当然だなーなどとハワイでの工事の風景を見て思ったのでした。

ジーンズへのサンドブラスト加工について

おそらく2009年か2010年だったと記憶していますが、ある日突然『ジーンズへのサンドブラスト加工を禁止し、世界のアパレル業界に対しても禁止を呼びかける』というニュースが入ってきました。確か最初はLevi’sとH&Mが発表して、すぐにWall MartやVFコーポレーションが追随して禁止の発表をしたと記憶しています。

どのような根拠なのかをいろいろと調べてみると、トルコのジーンズ加工工場でサンドブラスト加工を担当していたワーカーが亡くなったという報道がフランスのテレビニュースで報じられたことがきっかけのようでした。
当時はまだフランスのニュース番組の動画がネットで見られました。(今日現在はみつかりません。)
ニュースの中では、はっきりとLevi’sのジーンズが映っていました。

当時、日本ではサンドブラスト加工は一般的に行われていましたし、今日でもおそらく一部のジーンズ加工工場では行われているだろうと思います。それでは、Levi’sやH&Mが発表したのはどのような状況だったのでしょうか?

今日現在もネットで検索すると『サンドブラストは世界的に規制・禁止されている』と書かれているのですが、それは正しいです。実はサンドブラスト加工とはジーンズのダメージ加工のための技術ではなく、ジェット機のエンジンパーツの研磨や船舶などの錆落とし、身近なところでは銀座のAppleストアの外壁の梨地加工など、大変幅広い分野で使用されている、金属工業には無くてはならない加工技術です。そして、その加工方法や作業環境に対しては大変厳格かつ完成された作業環境基準が適用されています。

私は当時、サンドブラスト加工の研磨剤をいろいろと探して、新しい表現ができないかと、日本国内のエアーブラスト設備トップ企業、不二製作所の協力を受けて様々なテストを行っている最中でした。
海外のアパレル製造の業界でサンドブラストによる事故が発生し、亡くなった方がいらっしゃる事、サンドブラストを危険な加工として禁止の方向に向かっていると話したところ、不二製作所の方は大変驚かれ、このようにおっしゃいました。『そちらの業界がどのような管理基準を持たれているのかは存じ上げませんが、サンドブラスト加工を行うためには作業環境や保護具などが大変厳格に定められておりますので、他の業界でサンドブラスト加工に危険性があるというような状況は一切ございません。』
それはそうです。特に日本では、過去の鉱山での労働で多数の塵肺被害が発生していますので、粉塵作業に対しては労働法規(労働安全衛生法、粉じん障害防止規則など)で大変厳格な規程や規則が定められ、条件によっては勤務が終えてまでも継続した【粉じん作業における特殊健康診断】の義務までが定められています。
そのような業界の方からは、サンドブラスト加工で死者を出してしまったアパレル製造の業界を見ると、おそらく原始人のように感じられたのではないでしょうか。

サンドブラスト加工の禁止を提唱しているアパレルブランドは、ほとんどが「ジーンズ加工においてサンドブラスト加工を行う際の作業方法や作業環境を管理しきれないため、サンドブラスト加工は禁止する」と述べています。これは正しい見解だと思います。

トルコでのサンドブラスト加工で死者が出た際に、研磨に使用されていたのは珪砂(けいしゃ・けいさ)だったようです。成分には二酸化珪素【シリカ・石英】が含まれ、シリカ結晶は、国際がん研究機関(IARC)によりグループ1【ヒトに対する発がん性が認められる】とされており、日本の安全衛生法でも危険性物質1Aに指定されている発がん性物質です。
また、珪砂(研磨剤)がサンドブラスト加工により微細に砕け、2ミクロン(μm 0.002mm)以下の粒子・粉塵として肺に吸入された場合、珪肺という石英、珪石など遊離珪酸を含む粉塵の吸入が原因となる、命に係わる重大なじん肺の症状となります。ジーンズのサンドブラスト加工においても、他業種同様に正しい保護具の着用や作業環境の整備は当然の事です。

皆さん、料理を作るときには包丁を使用されると思います。そして、今日、どこかで包丁を使った殺傷事件が起きているかもしれません。包丁は使い方によっては命を奪う危険な道具である事は間違いありませんが、本来、道具とは正しい使い方をしている限り安全で、世の中にはたくさん存在しているものです。
大切なのは、正しい使い方をすること、または使う相手に正しい使い方を教えることであると思います。

このような事から私自身はジーンズのサンドブラスト加工を絶対に禁止とすべきとは考えていません。もちろん各社・各ブランドが自社のポリシーとしてサンドブラスト加工を禁止する事は間違った判断ではありません。
このサンドブラスト事件が発生した結果、世界のジーンズトップブランド達は『サンドブラストを禁止する』と提唱し、サンドブラスト加工に代わる新たなダメージ加工を模索し始めました。その結果、新たな加工技法として『レーザー加工』や『ウォーターブラスト』といった新技術の開発が一歩進んだという事は、大きな功績であると思います。

JEAMS MEISTER 小泉のJEANS JOURNEY ブログ

JEANS JOURNEYのホームページとブログを立ち上げることにして、さあどんな事をブログで取り上げようかと考えています。今回は第一回目なので、特にJOURNEYはせず(緊急事態宣言中だし)過去の思い出話など。

2015年11月の事。その年、国際的な繊維機器の展示会であるITMA(イトマ)がミラノで行われ、同時にジーンズのストーンウォッシュマシンでは世界的に定評あるイタリアの洗い加工機械メーカーのTonelloがニューコンセプトの新作機械お披露目会を行うということで、展示会視察に参加しました。
ITMAの展示内容やTonelloの新作機械の話はまた別の機会として・・

ITMAの会場はミラノの大きな展示会場でした。そして、Tonello社の所在地はほとんどベネチアに近い所で、ミラノからはかなり遠く、高速バスで3時間近くかかるのでした。

Tonello社まで移動するのは大型バス。しかも満席状態で、イタリア人やらアメリカ人やらバングラデシュ人の太ったおっさん(私もですが 笑)の体臭でムンムン。そんな中、やっと明るくなったくらいの時間にパスはベネチア方面に向けてスタートしました。
普通ね、日本的な感覚だったらだいたい1時間に一回くらいトイレ休憩ってありますよね?
東名高速道路だったら、まずは海老名SAか足柄SAで一回目のトイレ休憩みたいな。
でも、イタリア的には、無いんです。トイレ休憩。パスはただひたすら高速道路をぶっ飛ばし、だいたい2時間くらい。やっと到着したのはどうやらTonello社の関係者が所有しているらしいブドウ畑の中にポツンとある大きな平屋。
『あー、やっとトイレ行ける』とホッとして用を済ませた後は、だいたい11時くらいでしたが「さあpranzoしましょう」との事で、まっ昼間から皆さんワインがぶ飲み、ピザやパスタやなんやかんやが盛大に並んだテーブルを囲んで3時間近い時間の昼食となりました。
(その後のTonello社視察は省略 みんな泥酔していたと思う。)

17時くらいまで視察会は続き、終了後にTonello社を出発しました。
うーん。。また3時間バス乗ってミラノまで戻るのか・・ととっても憂鬱な気分だったのですが、アナウンスでは『途中のナントカ湖のリゾートホテルのレストランで懇親会します』との事。まあ晩御飯くらいは食べるだろうと思っていたんですが、途中で酒飲むの嫌だなー。と思いました。そりゃそうです。トイレ休憩のないバスに乗る前に酒飲んだらどんなことになるかは想像できます。

そして、バスはTonello社を出発してだいたい1時間くらいで懇親会会場である湖沿いのリソートホテルに到着しました。ちなみに、湖沿いとか言ってますが、実際には湖なんて観てません。ヨーロッパをご存知の方なら良くお分かりだと思いますが、11月のイタリアはだいたい夜6時過ぎくらいには真っ暗で景色なんて見えません。(-_-;)

懇親会のホテルについて私は思いました。『もうちょっとミラノの近くのが良いんじゃね?』
だって、Tonello社からミラノまで3時間かかるんだから、3時間-1時間=2時間ってことで、夕食食べてさんざん酒飲んでから2時間バス乗るの?って話です。

まあそもそも私自信が大酒のみでイタリア料理なんて大好きなので制約が効かない自分が悪いっていえばそれまでですが、結局懇親会では大いに食べ、美味しいワインをたっぷりと飲み、やはり3時間近く懇親会を行った後でぎゅうぎゅう詰めで換気が悪くて酒臭い太ったオヤジ満載のバスはミラノへの帰路についたのでした。

この先の、二度と経験したくないような状況は省略させて頂きます。しかし、地獄のような二時間でした。ミラノに到着した時には、バスを降りて向かいにあったホテルのトイレに向けてダッシュ(小股で)しました。
後から同行していた当時の社長に聞いたところでは、バスの車内では英語で『トイレ行きたくなっちゃったら言ってくれれば止めるからねー』と言っていたんだそうです。
残念ながら私は英語力が全くなく、理解できていませんでした。
しかし、高速道路を走行中の多国籍混載ぎゅうぎゅう詰めバスの中で「運転手さん!トイレ!」とか、なかなか言えませんよね。実際に私以外にも到着してトイレまでダッシュしていたアメリカ人やバングラデシュ人もいましたので、みんな同じように我慢していたんだと思います。

もうミラノの展示会とかTonello社までパスで行くような機会は無いと思いますが、もしもオファーを頂いても絶対にお断りすると思います。