ジーンズへのサンドブラスト加工について

おそらく2009年か2010年だったと記憶していますが、ある日突然『ジーンズへのサンドブラスト加工を禁止し、世界のアパレル業界に対しても禁止を呼びかける』というニュースが入ってきました。確か最初はLevi’sとH&Mが発表して、すぐにWall MartやVFコーポレーションが追随して禁止の発表をしたと記憶しています。

どのような根拠なのかをいろいろと調べてみると、トルコのジーンズ加工工場でサンドブラスト加工を担当していたワーカーが亡くなったという報道がフランスのテレビニュースで報じられたことがきっかけのようでした。
当時はまだフランスのニュース番組の動画がネットで見られました。(今日現在はみつかりません。)
ニュースの中では、はっきりとLevi’sのジーンズが映っていました。

当時、日本ではサンドブラスト加工は一般的に行われていましたし、今日でもおそらく一部のジーンズ加工工場では行われているだろうと思います。それでは、Levi’sやH&Mが発表したのはどのような状況だったのでしょうか?

今日現在もネットで検索すると『サンドブラストは世界的に規制・禁止されている』と書かれているのですが、それは正しいです。実はサンドブラスト加工とはジーンズのダメージ加工のための技術ではなく、ジェット機のエンジンパーツの研磨や船舶などの錆落とし、身近なところでは銀座のAppleストアの外壁の梨地加工など、大変幅広い分野で使用されている、金属工業には無くてはならない加工技術です。そして、その加工方法や作業環境に対しては大変厳格かつ完成された作業環境基準が適用されています。

私は当時、サンドブラスト加工の研磨剤をいろいろと探して、新しい表現ができないかと、日本国内のエアーブラスト設備トップ企業、不二製作所の協力を受けて様々なテストを行っている最中でした。
海外のアパレル製造の業界でサンドブラストによる事故が発生し、亡くなった方がいらっしゃる事、サンドブラストを危険な加工として禁止の方向に向かっていると話したところ、不二製作所の方は大変驚かれ、このようにおっしゃいました。『そちらの業界がどのような管理基準を持たれているのかは存じ上げませんが、サンドブラスト加工を行うためには作業環境や保護具などが大変厳格に定められておりますので、他の業界でサンドブラスト加工に危険性があるというような状況は一切ございません。』
それはそうです。特に日本では、過去の鉱山での労働で多数の塵肺被害が発生していますので、粉塵作業に対しては労働法規(労働安全衛生法、粉じん障害防止規則など)で大変厳格な規程や規則が定められ、条件によっては勤務が終えてまでも継続した【粉じん作業における特殊健康診断】の義務までが定められています。
そのような業界の方からは、サンドブラスト加工で死者を出してしまったアパレル製造の業界を見ると、おそらく原始人のように感じられたのではないでしょうか。

サンドブラスト加工の禁止を提唱しているアパレルブランドは、ほとんどが「ジーンズ加工においてサンドブラスト加工を行う際の作業方法や作業環境を管理しきれないため、サンドブラスト加工は禁止する」と述べています。これは正しい見解だと思います。

トルコでのサンドブラスト加工で死者が出た際に、研磨に使用されていたのは珪砂(けいしゃ・けいさ)だったようです。成分には二酸化珪素【シリカ・石英】が含まれ、シリカ結晶は、国際がん研究機関(IARC)によりグループ1【ヒトに対する発がん性が認められる】とされており、日本の安全衛生法でも危険性物質1Aに指定されている発がん性物質です。
また、珪砂(研磨剤)がサンドブラスト加工により微細に砕け、2ミクロン(μm 0.002mm)以下の粒子・粉塵として肺に吸入された場合、珪肺という石英、珪石など遊離珪酸を含む粉塵の吸入が原因となる、命に係わる重大なじん肺の症状となります。ジーンズのサンドブラスト加工においても、他業種同様に正しい保護具の着用や作業環境の整備は当然の事です。

皆さん、料理を作るときには包丁を使用されると思います。そして、今日、どこかで包丁を使った殺傷事件が起きているかもしれません。包丁は使い方によっては命を奪う危険な道具である事は間違いありませんが、本来、道具とは正しい使い方をしている限り安全で、世の中にはたくさん存在しているものです。
大切なのは、正しい使い方をすること、または使う相手に正しい使い方を教えることであると思います。

このような事から私自身はジーンズのサンドブラスト加工を絶対に禁止とすべきとは考えていません。もちろん各社・各ブランドが自社のポリシーとしてサンドブラスト加工を禁止する事は間違った判断ではありません。
このサンドブラスト事件が発生した結果、世界のジーンズトップブランド達は『サンドブラストを禁止する』と提唱し、サンドブラスト加工に代わる新たなダメージ加工を模索し始めました。その結果、新たな加工技法として『レーザー加工』や『ウォーターブラスト』といった新技術の開発が一歩進んだという事は、大きな功績であると思います。

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