JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』

JEAMS MEISTER 小泉 ジーンズを買うの巻 その4『裾ミツマキ』

 

JEANS JOURNEYブログを読んで頂きありがとうございます。『JEANS MEISTER.小泉 ジーンズを買うの巻 すでに 1   2  3 と過去3回の投稿となりましたが、たくさんのアクセスを頂いており 、大変光栄です。

世の中にはすごいジーンズマニアやこだわりの方がたくさんいらっしゃる事と思いますが、私の書く内容はマニアというよりは職業としてのジーンズの話ですので、これほど多くの方に興味を持って頂けるとはビックリです。ますます専門的な内容になって行きますので()ぜひついて来て頂きたいです。(^^)

前回までに、品質表示ネーム、ベルト付け、コインポケット付けを解析してきましたが、続いてはジーンズの裾のほうまで視線を下してみます。

ジーンズのマニアの方達は裾のミツマキ(三巻・三つ巻き)が好きな方が多いですね。それはきっと、こだわりのショップさんなどが古いユニオンスペシャルの裾ミツマキを使用してチェーンステッチでの裾上げをされている事などがあり、『裾上げチェーンステッチ=ビンテージテイスト』というイメージが浸透していった事などが関係しているのであろうと思います。

チェーンステッチの裏側

 

それでは私の購入したLevi’sの裾ミツマキを見てみます。やはりチェーンステッチではありませんね。本縫いミシンで縫われています。やはりビンテージテイストでは無いので本縫いなのでしょうか。

これは、半分正しくて半分間違った解釈と言うべきであろうと思います。

そもそもプロの目線で見ると、実はこれは不思議な現象なのです。それはなぜかと言うと、ジーンズに限らず縫製品というのは『本縫い→環縫い(チェーンステッチ)』へと仕様と設備が変化して行った経緯があるからです。

ミシンを触ったことの無い方には理解にしくいかと思いますが、いわゆる本縫いミシンは、必ず下糸をボビンに巻いてボビンケースに入れるという作業が必要となります。

これはあくまでもウワサで聞いた話ですが、もしも下糸をボビンに巻かないで縫製できるミシンを開発したらノーベル賞級の発明だという事です。

おそらく世界中の繊維機械メーカーの技術者が開発に挑戦した事と思いますが、未だかつて開発は成功していません。

なぜ下糸をボビンに巻かない事がそんなに重要なのかと言うと、世界中の縫製工場や、お子さんの幼稚園用のきんちゃく袋を縫っているお母さんたちも、本縫いミシンを使うときには必ず下糸をボビンに巻かねばならず、特に縫製工場では数本から数十本を縫製するたびに一度ずつボビンの下糸が無くなり、糸を巻いてあるボビンをボビンケースに入れてミシンの下側にセットするという大変手間がかかる作業が世界中の縫製工場とお母さんに発生しているからなのです。

これは縫製する工程によるのですが、糸の使用量の多い工程では作業時間の5%程度が下糸交換のためにロス時間になっていると言われています。また、縫製箇所の途中で下糸が無くなってしまうと、縫いつなぎになるので見た目も悪く、縫い目の強度も落ちてしまい製品の品質に大きな影響があります。

このような理由から、縫製工程というのはなるべく環縫いで行ったほうが生産性が高く、特に価格の低いジーンズやワークウエアなどでは環縫いが多用されています。

逆の見方をすれば、高級な衣料品ほど裏側に環縫いが出ている部位は少ないと言えます。百貨店でオーダー製作したワイシャツなどは、ほとんどの行程が本縫いで作られていると思います。

高級なワイシャツの裏側

 

話は戻りますが、私が購入したジーンズは本縫いで裾上げされていました。そもそも環縫いの裾ミツマキのミシンは過去より存在しているわけですから、環縫いで裾上げしたほうが生産性は高いはずです。それではなぜ、最近生産されたLevi’sジーンズの裾上げが本縫いなのでしょうか?

この答えは、環縫いという仕様の特性による、ある問題が原因と考えられます。それは、『環縫いは縫い終わり側から下糸を引っ張るとほつれる』というものてす。

環縫いの縫い目はニットなどに似ており、糸を輪っかにして編むように縫い進んで行きます。そして、縫い終わりの糸は編まれた輪の途中ですので、引っ張るとポロポロと解けていきます。

これはジーンズの裾ミツマキにも当てはまり、縫い終わり部分で縫い始めのステッチと重ねて縫製して、糸を切ってしまうので、縫い終わりの糸端がそのままの状態になっています。この糸端を引っ張ると、環縫いの裾ミツマキは面白いように解けてしまいます。

ここまでの説明だと『簡単に解れてしまう縫い方ならば、なぜ一般的な衣料品は本縫いから環縫いに変わって行ったのか?』という疑問が生まれると思います。この部分については、ご自身の持っている環縫いで縫われているGジャンやワークシャツなどを見て頂くとお分かり頂けると思いますが、その理由は『環縫いで縫われている部分は糸の端が露出していない』事が使用箇所の条件になっているからです。

Gジャンやワークシャツなどでは、身頃の切り替え部分や袖下から脇など、さまざまな箇所で環縫いが使用されていますが、全ての箇所で糸の端は縫い代の中やベルトやカフスの中に入っているはずです。環縫いを使用している行程では糸端が露出しているという状況はほとんどありません。

このような事から、過去には存在していた環縫いの裾巻きミシンは徐々に廃れていき、世界的に見るとジーンズの縫製工場で使用されている裾ミツマキのミシンは本縫いが主流となっていきました。

 

【チェーンステッチミシンを使用する場合の対策】

現在では、環縫いの裾ミツマキミシンにおいて、縫い終わりの縫い目がほつれないような機構が付いた物が開発され、日本のミシンメーカーさんより発売されているようです。この機構はおよそ20年ほど前に、私と旧ユニオンスペシャルジャパンの山本氏(故人)が開発した、縫い終わり部分で糸切りペダル(かかと側)を踏むと針板をシリンダーで持ち上げ、縫い目を細かくして数針縫ってほつれを防止する、ショートステッチ機構という装置が元になっています。この開発によって、それまで洗い加工で多発していた裾ミツマキのほつれはゼロになりました。

このような最新のミシンを使用すればほつれの問題は無いのですが、なかなか最新式の裾ミツマキのミシンを所有している縫製工場さんは無いと思います。チェーンステッチミシンを持っているとしても、おそらく旧ユニオンスペシャル34500や43200などのかなり古い物が多い事でしょう。

 

BLUE ROUTEさんの ユニオンスペシャル34500

 

それでは、古いチェーンステッチミシンで裾ミツマキを縫製する場合にはどのような対策を取ったら良いでのでしょうか?

一般的に行われている方法としては、『縫い終わりの側の糸を結ぶ』という方法かと思います。縫い終わり部分を長めに縫っておいて、数センチ程度を解いて下糸と上糸(下側に抜く)を結びます。また、チェーンステッチは特性上、環縫いの輪から下糸を引き抜くだけでほつれは止まりますので、洗い加工などがある場合には、下糸を輪から抜いて糸を絞めておくだけでもほつれは発生しません。

 

【現在でも購入できる裾上げ用チェーンステッチミシン】

過去には縫製工場で使用していたユニオンスペシャル34500の中古品を店舗で使用できるように改造して、ショップ用として販売されていた時期がありました。しかし、だんだんと中古ミシンが無くなって来たので、およそ15年くらい前にペガサスミシンさんに依頼して、ショップ専用裾ミツマキチェーンステッチミシンを製作して頂いた事があります。

そもそも工場で使用していたミシンはモーターの電源が三相200Vであり、押さえ上げ機構やバインダー開閉もエアーコンプレッサーを使用して作動する構造でしたので店舗用に改造する必要がありました。

そのためショップ用裾上げミシンは、家庭用として使用されている100V電源のモーターをセットし、押さえ上げ機構やバインダーの作動は脚で動かすペダルを取り付けています。

基本的な動作(バインダーの開閉など)は工場で使用されている裾ミツマキミシンと同一であり、縫い上がりの状態もジーンズマニアの方たちが好むような、少しねじれてパッカリングが出る感じになります。

【ビンテージ風なパッカリングはチェーンステッチでは無いと出ないのか】

チェーンステッチの裾上げを好む方たちの意見としては、チェーンステッチミシンで縫うと裾にパッカリング(ねじれ)が出て、洗い込むと味のある雰囲気になるとおっしゃいます。この解釈は、半分ほどは正しくて半分ほどは誤解があると私は思っています。(私見です。)

確かにチェーンステッチで裾上げされた場合にはパッカリングが発生して洗うとデコボコ部分にアタリが出て味がある雰囲気になります。しかし、その理由はチェーンステッチミシンで縫製したからというよりも『バインダーを使用してミツマキしたから』なのです。ジーンズショップさんなどで本縫いミシンで裾上げしてもらう場合には、手で三つ折りして本縫いミシンで縫いますので、パッカリングはほとんど出ません。そういう意味では本縫いミシンで裾上げするとパッカリングは出ません。

しかし実は、縫製工場で使用されている裾上げ用本縫いミシンは、チェーンステッチミシンと同じ機構でミシンが本縫いなだけという機種があります。ですので、チェーンステッチミシンと同じようにバインダーを使用してミツマキするので、若干のねじれが出てパッカリングが発生します。

つまり、ビンテージテイストの裾のパッカリングはチェーンステッチという理由よりも、バインダーによって発生しているというのが正しい解釈かと思います。なお、チェーンステッチの糸調子によってよりパッカリングが発生しやすいという理由もあるかとは思いますが、それは使用する糸の種類や糸調子によって変わります。

 

なお、この記事を書きながら『以前ペガサスミシンさんで作ったショップ用チェーンステッチミシンはまだ入手できるのか?』と思いペガサスミシンさんに問い合わせたところ、それほど台数が売れるミシンでは無いので基本的に受注生産となるようですが、現在も取り扱いはあるそうです。

もしも興味がありましたら、下記『ペガサスミシン』さんにお問い合わせください。

ペガサスミシンさん ホームページへ https://www.pegasus.co.jp/ja/

当時のパンフレット W664-21ABx100/UT/Y

上記内容について、間違えているというご意見やどなたかの権利に抵触している部分がございましたら、以下メッセージ欄にコメントをお願いします。ご意見やお申し出をふまえて修正致します。

この先は『ジーンズマイスター小泉 ジーンズを買うの巻 5 』に続くのですが、次回は一回内容を変えて『Charのジーンズをダーッとやりてえ やんないけどね♩🎸』をお送りする予定です。Charさんのジーンズを制作した方のインタビューを掲載予定です‼️😆

 

 

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